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景勝地[10] 郡上の鍾乳洞
~作・演出: 地下水~

 
 
  
【豆知識】

八幡町安久田(あくた)から美山(みやま)へかけての地域には美濃帯堆積岩類石灰岩が帯状に分布しており,それに沿って地表では石灰岩地帯に特有のカルスト地形がみられ,地下には鍾乳洞 (石灰洞) が数多く分布している.鍾乳洞は,空気中の二酸化炭素 (CO2) を溶かしこんだ雨水が石灰岩の主成分である炭酸カルシウム (CaCO3) を長い年月かけて溶かしてつくった洞穴である.炭酸カルシウムを溶かした地下水が洞穴の天井から滴となって落下するときに天井や床面にふたたび炭酸カルシウムを沈澱させる.こうした沈澱生成物にはいろいろな形をしたものがあり,天井から垂れ下がった鍾乳石,床面から竹の子のようにのびる石筍,千枚田のように広がる畦石などいろいろな名称がつけられている.鍾乳洞の作・演出はともに地下水であり,鍾乳洞の洞窟の位置は当時の地下水面と密接に関係することになる.この地域ではいくつかの鍾乳洞が観光洞として一般に開放されており,丹生川村にある鍾乳洞も郡上のものと同じ美濃帯堆積岩類の石灰岩分布地帯にあたっている.
八幡町美山に分布する鍾乳洞のひとつである熊石洞では,石灰岩の割れ目につまっている土砂から多数の哺乳類化石が発見されている.これらの化石は美山動物群と呼ばれ,草原で生活していたナウマンゾウやオオツノジカ,針葉樹林帯の湿地で生活していたヘラシカなど,現在では絶滅したり,本州では見られない種類も含めて30種近くにおよび,その歯,角,足の骨など数千点に達する.これらの化石の骨から最後の氷期にあたる約1万7000年前という年代値が得られており,当時の郡上地域は現在のシベリアのような寒冷気候で,森林と草原が接しあっているような環境であったと推定されている.

【関連項目】 岩石・鉱物[7] 美濃帯堆積岩類
資源・温泉[1] 石灰石

【キーワード】 カルスト地形,寒冷気候,熊石洞,鍾乳洞,沈澱生成物,石灰岩,美山動物群

【関連文献】
脇田浩二 (1984) 八幡地域の地質.地域地質研究報告 (5万分の1図幅) ,地質調査所,89P.

【余談】
鍾乳洞は石灰岩という特定の成分をもつ岩石であるからこそ作られるものである.その中へ1歩足を踏み込めば,自然の造形美に目を奪われ,同時に自然界の力に驚かされる.しかし,特定の成分だけであることは作物にとっては良好な大地を提供せず,農作物には決して喜ばれない土地となる.“安久田”の地名は明らかに“悪田”から転じている.

『学習テーマ』
中学1年「大地の変化 (地層と大地の歴史) ―堆積岩,浸食,化石


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