岐阜の地学  火山  火山豆石  福地のオルドビス紀化石

火山[23] 安房トンネル
~火山内部を貫く~

地図
ウィンドウ
を開く






 
 
 
  
【豆知識】

火山体は噴出物に覆われているために,その内部,とりわけ中心部を直接みることができない.通常はそこを通過してくる噴出物などから間接的に情報を得るか,開析された古い火山体を参考にすることで推定するしか方法がない.海底にまでトンネルを通す時代であるから火山体にトンネルを通すことぐらいのことは簡単なことのような気がするが,実際には相当やっかいな作業となる.仮に火山体の中心部へ向けて掘削するとしても,火山噴出物には溶岩のような硬固な岩石もあれば,火山灰のように柔らかな堆積物もあり,硬軟不均質な岩盤の中を掘ることにまず問題がでよう.それは技術的に解決するとしても,熱いマグマに接近することが最大の問題となる.噴火中の火山でない限りマグマに直接触れるようなことはないであろうが,掘削後の将来については何の保証もない.こうした場所にわざわざトンネルを掘るようなことは避けるのが普通であり,現在でもそうしたトンネルはない.
福井市から高山市を経て松本市を結ぶ国道158号線は岐阜・長野県境で安房(あぼう)峠を越える.ここは交通の要所でありながら難所であったため,トンネルで貫く工事が1983年 (昭和58年) から調査抗掘削で始められ,1995年 (平成7年) に本抗が貫通した.現在,岐阜県側の平湯温泉と長野県側の中ノ湯温泉をつないで約4.3kmの距離を車で簡単に通過してしまうが,岐阜県側では焼岳火山群の1つであるアカンダナ火山の一角を,長野県側では美濃帯堆積岩類中の高地熱地帯をそれぞれ貫き,湧水や高温熱水に阻まれながらも12年かけて掘られた.必ずしも火山体の中心部を貫いたわけではなかったこともあるが,幸いにもトンネル工事で火山活動にかかわるような事故が起きずに完成した.しかし,1995年2月11日に中ノ湯温泉付近の取付け道路の工事現場で水蒸気爆発が起こり,4名の犠牲者が出た.火山体の近くでは紙一重のところにまで火山活動の一端が接近していることになり,かなり危険な状況下でトンネル掘削が行なわれたと考えてよい.

【関連項目】 火山[6] 焼岳火山
資源・温泉[12] 奥飛騨温泉郷

【キーワード】 アカンダナ火山,安房トンネル,火山体の掘削,焼岳火山群

【関連文献】
原山 智 (1990) 上高地地域の地質.地域地質研究報告 (5万分の1地質図幅) ,地質調査所,175P.
三宅康幸・小坂丈予 (1998) 長野県安曇村中ノ湯における1995年2月11日の水蒸気爆発.火山,43,113–121.

【余談】
トンネル掘削に関する日本の技術水準はいまさらいうまでもない.どこでも掘ってしまうといってもよいであろう.しかし,掘れることと掘ってもよいこととは別問題である.掘削の技術は残念ながら掘削後の管理・保全技術とは無関係である.これはトンネルに限ったことではない.作ってしまった後のことまで予測し,保全に努められる技術でなければ本当の技術とはいえない時代にいると考えるべきである.

『学習テーマ』


岐阜の地学  火山  火山豆石  福地のオルドビス紀化石

ホーム岐阜の地学・よもやま話 copyright © Yoshimitsu Koido 2001–2002.
製作・著作: 小井土 由光 (email), ページ作成: 江川 直 (email).