岐阜の地学  火山  枕状溶岩  上宝・奥飛騨火砕流堆積物

火山[19] 丹生川火砕流堆積物
~北アルプスからきた火砕流~

 
  
【豆知識】

幸いにも岐阜県下では歴史時代に火砕流に襲われたことはないが,少し時代をさかのぼると飛騨地方にいくつかの大規模な火砕流が流れている.第四紀直前の鮮新世後期 (約240万年前) には,かなり広範囲に丹生川火砕流堆積物と呼ばれる火砕流堆積物が流出しており,その分布域は現在の北アルプス稜線を東限とし,おおよそ高山市付近から飛騨川流域を西限とし,高原川流域から飛騨小坂付近までのきわめて広い範囲におよぶ.ただし,現在ではかなりの部分が削剥されてしまい,点在しているに過ぎない.この堆積物はおもにデイサイト質溶結凝灰岩からなり,下部に非溶結部をともなう.溶結凝灰岩は柱状節理をともなって均質塊状の堅硬な岩石からなる.厚さも当時の地形により大きく変化するが,おおよそ50~100mである.その分布高度は現在の地形高度とかなり異なり,位山(くらいやま)分水嶺の生まれる以前の噴出物を物語っている.
丹生川火砕流堆積物は,当初は乗鞍岳付近に想定された出口から噴出したと考えられていたが,その後,北アルプスの穂高岳周辺に分布する穂高安山岩類を構成する火山岩類の一部と同一のものであることが明らかになった.穂高安山岩類は槍・穂高連峰を構成する岩石であり,おもに安山岩質~デイサイト質の溶結凝灰岩からなり,南北約10km,東西4~5kmの細長い陥没盆地の中に噴出し,そこに約1000mの厚さでためられている.柱状節理をもった均質塊状で堅硬な溶結凝灰岩が北アルプスの主稜線をつくる高い岩峰や岩壁を作っている.この陥没盆地から溢れて広範囲に流れ出たものが丹生川火砕流堆積物である.ただし,穂高安山岩類は北アルプスの上昇運動が始まる以前か,始まった頃に形成されたものであり,現在の北アルプスの標高を想定した高い場所から流れ出たわけではない.世界で最も若い花崗岩体である滝谷花崗閃緑岩は,穂高安山岩類を噴出させたマグマの残存物あるいは類縁マグマが火山活動に引き続いて貫入したものである.

【関連項目】 火山[10] 火砕流
火山[11] 溶結凝灰岩
岩石・鉱物[3] 滝谷花崗閃緑岩
地形[4] 北アルプス
地形[6] 位山分水嶺

【キーワード】 火砕流堆積物,陥没盆地,位山分水嶺,滝谷花崗閃緑岩,丹生川火砕流堆積物,穂高安山岩類,溶結凝灰岩,

【関連文献】
原山 智 (1990) 上高地地域の地質.地域地質研究報告 (5万分の1地質図幅) ,地質調査所,176P.
Harayama,S(1992) Youngest exposed granitoid pluton on Earth: Cooling and rapid uplift of the Pliocene‐Quaternary Takidani Granodiorite in the Japan Alps, central Japan. Geology, 20, 657–660.
山田直利・足立 守・梶田澄雄・原山 智・山崎晴雄・豊 遥秋 (1985) 高山地域の地質.地域地質研究報告 (5万分の1図幅) ,地質調査所,111P.

【余談】
穂高安山岩類は時代が古いので火山体とはいえないが,北アルプスを代表する槍・穂高連峰を作っているので,日本の高い山の宿命のように,高い山が火山岩類でできていることになる.穂高安山岩類にしてみれば,「いつのまにかこんな高いところまで押し上げられてしまった.」とでも言いたいであろうが.

『学習テーマ』
中学1年「大地の変化 (火山と火成岩) ―火山活動 (火砕流)


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