土砂災害 〜砂上の楼閣?〜
 「砂上の楼閣」という言葉は,基礎がしっかりしていない砂山の上にどんなに立派な建物を建ててもだめだという意味から,社会における類似の場面に喩えとして使われています。それほどではないにしても,花こう岩地帯では,マサ化によって形成された風化殻がマサかの「砂上の楼閣」地帯を作っていくはずです。


≪土砂災害と緩傾斜地形≫


マサ化により“砂山”のようになった花こう岩の露頭(中津川市蛭川)
 硬い岩盤がマサ化することで“砂山”のようになってしまうと,それらは硬い岩盤では考えられないほど容易に削剥され,運び出されていきます。それらが豪雨などにより急激に削剥され,移動すると土砂崩壊となり,私たちの生活に襲いかかってくる災害の要因となります。ところが,私たちが実際にみている風化殻のほとんどは化石風化殻ですから,浸食が進み,硬い岩盤が露出している場所も,まだマサが削り去られずに残っている場所もあります。

花こう岩地帯の緩傾斜地形(中央自動車道 屏風山PA付近)
 化石風化殻とはいえ,土砂災害の要素が完全に取り除かれたわけではありません。しかし,全体としてみると,かなり風化殻が削られてしまっていますから,活断層沿いといった特殊な場所を除けば,平坦な緩傾斜地形が広がることになります。それは,私たちの生活の舞台として利用しやすい場所を提供してくれていることになります。



≪花こう岩地帯のリスクと恩恵≫
 現在の花こう岩地帯では,化石風化殻として崩壊しやすい場所は崩壊してしまい,自然界のバランスで安定化していることになります。しかし,花こう岩地帯はマサ化という要素を常に備えた岩石から成り立っており,それは少なからず現在も進行しているわけですから,崩壊しやすい条件をもっていることになります。


花こう岩地帯における宅地造成の例(京都市の比叡平ニュータウン;池田(1974)による)
 崩壊しやすい条件を逆に利用して,人工的に花こう岩の山体を削り,大規模な土地造成(宅地造成)が進められています。京都市の比叡山地における大規模な宅地造成や,神戸市の六甲山地における土地造成とその土砂を利用した海岸埋立て・人工島建設などがよく知られていますが,小規模な開発は全国各地で進められています。ただし,人間の力で自然界のバランスを崩しているわけですから,それだけ災害のリスクを背負っての開発となるはずです。