粘 土 〜お茶碗の起源は花こう岩!〜
 花こう岩が化学的(鉱物学的)風化作用を受けることで,おもに長石類がストレス解消をして粘土鉱物を生成します。それから陶磁器が作られますから,ごはんを食べるお茶碗の起源は花こう岩になります。



≪東濃・瀬戸地域における粘土層の形成≫


粘土鉱山における露天掘りの様子(恵那市山岡町原)
 岐阜県の南東部から愛知県の北東部へかけての地域には,白亜紀・古第三紀に形成された花こう岩類が広く露出しています。これらの花こう岩類は,中新世後期から鮮新世にかけての時期(約1000万年〜300万年前)に湿潤・多雨気候のもとで地表に露出し,大規模にマサ化するとともに,化学的(鉱物学的)風化作用を受けました。その結果,大量の粘土鉱物が生成されました。
 生成された粘土は,当時の河川により下流へ運び出されました。そのまま海まで運ばれてしまうと,粘土は散逸してしまったはずです。当時,偶然にも「東海湖」と呼ばれている湖が形成されており,そこに大量の粘土が流れ込み,粘土層を形成しました。
 東海湖は,時代とともにその分布域を変えていきましたから,それに応じて堆積時期の異なる粘土層が異なる堆積環境のもとで形成されていきました。
 東海湖へ流れ込んだ河川は,その上流域の地質状況に応じて質の異なる粘土を供給していきました。例えば,瀬戸・多治見地域ではおもに花こう岩の分布域から,常滑地域ではおもに変成岩や堆積岩の分布地域からそれぞれ供給された粘土を堆積させました。それらをもとに焼かれた陶磁器は,瀬戸焼・美濃焼,常滑焼といった異なる性質をもつ焼き物として使われています。



≪東濃・瀬戸地域における粘土鉱床≫
 東濃・瀬戸地域に産する粘土鉱床は,この地域に広く分布する花こう岩類を起源として形成され,蛙目(がえろめ)粘土・木節(きぶし)粘土と呼ばれる粘土層からなります。


蛙目粘土(恵那市山岡町)
 蛙目粘土は,花こう岩が風化分解され,ほとんど淘汰されずに堆積したもので,径1〜3mmの多量の石英粒や少量の長石類などを含む粘土層です。雨水に濡れた石英粒が蛙の目に似ていることからこの名があります。木節粘土は,蛙目粘土にくらべて淘汰が進み,粘土が湖に堆積する際に周囲から木片をいっしょに流し込み,それらが炭化した木片として含まれる粘土層です。実際には,蛙目粘土と互層して産します。
 いずれもカオリンと呼ばれる良質の粘土鉱物を主体としており,これがこの地方を世界的な窯業地帯へ発展させる原動力となっています。
 蛙目粘土・木節粘土は,余分なものを除くために水簸選別されます。その過程で粘土成分と石英粒が得られます。前者は,水に懸濁させたものを圧縮機にかけて水分を分離し,円盤状の粘土板が作られます。後者は珪砂として利用されます。

水簸工場において圧縮機にかけて粘土板を作成(恵那市山岡町)

 円盤状の粘土板は,立てて並べられるように半分に切断され,それを並べて乾燥させ,それが出荷されます。



≪長石→粘土→陶磁器のシステム≫

 粘土と陶磁器の関係を材料から道具へのシステムとしてみましょう。堅固で加工できない長石類を自然界が加工可能な可塑性のある粘土に変えてくれました。加工しやすい材料を手に入れたことで,生活道具が作られますが,そのままでは道具としては使いづらいために,高温で焼くことで元の堅固な状態にして利用していることになります。
 粘土自体は,自然界が長時間かけて変えてくれた生成物ですから,そのままの状態で利用していれば,石材と同様に,他への大きな影響は出ません。ところが,莫大な熱エネルギーを使うことで堅固な生活道具に変えています。実際には,きわめて短時間で出発物質である長石類に戻していることになります。これとよく似たものにアルミ製品があります。粘土にあたるものがボーキサイトであり,それを熱ではなく莫大な電気エネルギーを用いてアルミニウムを得ています。



≪資源と環境≫

 陶磁器は,自然界がわずかなエネルギーで長時間かけて安定な物質(粘土)に変えたものを,人間が多大なエネルギーを使って短時間で元へ戻したものです。そのエネルギーを得るために,昔ならば周囲の山林を伐採して,それを燃しました。現在では石油を燃やしています。アルミ製品における電気の場合も同様です。そこには当然のごとく自然環境の破壊がともなわれます。私たちは,生活に便利な道具を手に入れたことで文明・文化を構築してきましたが,同時に進行させている環境破壊にも目を向けることを忘れてはいけません。
 自然界が動いている方向,それによって得られる恩恵,それを利用する上での逆方向の負荷,それにともなうリスク,これらを総合的に捉えてはじめて環境問題の入口に立てることを考えてみる必要があります。