暗い初期太陽のパラドックス

太陽が誕生してから約46億年が経った。この間,太陽は一日も休まず輝き続けてきた。
そのエネルギー源は,太陽中心部で起こる核融合反応である。この反応で,4個の水素原子核から1個のヘリウム原子核が作られ,大きなエネルギーが発生する。このエネルギーで,太陽は輝いている。

太陽の進化モデル


太陽光度の時間的変遷。
Teは放射平衡温度 (温室効果なし),Tsは気候モデルによる温度 (温室効果あり)。
(base on: Kump, L. R. et al. The Earth System. Upper Saddle River, Prentice‐Hall, Inc., 1999. p.160)
核融合反応によって,太陽の中心部では,水素原子核が徐々にヘリウム原子核に変わった。その結果,中心の密度は高くなり,温度も高くなる。すると,核融合反応が進んで,よりエネルギーを多く生み出す。このように,太陽の核融合反応が進むと,太陽自身に変化が起こる。最も大きな変化として,太陽が徐々に明るくなる。
この,太陽の内部構造の進化は,多くの天文学者が研究し,同様の結論を導いた。形成してまもないころの太陽の明るさは,現在の約70%しかなかった (図)。

気候の歴史

気候学者によると,現在の地球では,太陽の明るさが数%減るだけで寒冷化し,地球表面が完全に凍ってしまう。地球表層環境が昔も今と同じだったら,先カンブリア時代の地球表面は完全に凍結し,海も全て氷床で覆われていたはずだ。
ところが,地層や岩石に残された記録によると,38億年前から現在までずっと海があり,海が氷床で覆われてしまうようなことはほとんどなかった。
このように,太陽の進化モデルは地質学的証拠と矛盾していた。この矛盾は1970年代始めに惑星科学者が指摘し, “暗い初期太陽のパラドックス” と呼ばれた。

大気組成の変遷を見積もる


大気中の二酸化炭素濃度の変遷。
(Kasting, J. F. Earth's early atomosphere. Science. 259, 1993, 920–926)
このパラドックスを解決するには, “過去ほど大気の温室効果が大きかった” と考えればいい。
大気中の微量成分である二酸化炭素やメタンは,地表からの赤外線放射を吸収し,地表温度を高温に保つ。現在の大気中の二酸化炭素濃度は0.036%だが,先カンブリア時代にはそれより大量の二酸化炭素が大気中にあり,その温室効果で地表が凍結しなかった。
カスティング[解説]は,地表が凍結したことはないいう条件をもとに,過去の二酸化炭素濃度の変遷を求めた。このうして得られたグラフが図である。ただしこれは,7億年前と25億年前の氷河時代を計算に入れている。

参考: 地質時代の大気組成の測りかた

過去の大気組成を調べることはたいへん困難である。大気が 〝化石〟 として残ることはほとんどない。
過去数十万年間に対しては,南極氷床コアの解析から大気組成が調べられた。氷床は,毎年降り積もった雪が固まってできるので,雪の結晶の間に大気分子が閉じこめられて気泡を作る。厚い氷床を掘削して筒状の試料 (コア) を採り,閉じこめられている気体を取り出して分析すれば,当時の大気組成がわかる。しかし,このような大気そのものの記録は,ごく最近の時代に限られる。
カスティングは,太陽の進化に関する計算結果を使って大気組成を推定した。しかし,この推定には,不確定なことが多く,あまり精密ではないことに注意する必要がある。

© 2002 Gifu University, Shin‐Ichi Kawakami, Nao Egawa.