化石からたどる生物の変遷

化石とは

過去に生息した生物の遺体や痕跡が,地層中に埋没して保存されたものを,化石という。化石の多くは,生物の遺体が鉱物に置換された岩石や,遺体が印象として破断面に残った岩石だ。石灰質の骨格をもつ軟体動物 (二枚貝や巻き貝の仲間) やサンゴ,脊椎動物の骨格などは,化石として残りやすい。

化石によって時代を区分する

 新生代 
 Cenozoic 
 第四紀 
 Quaternary 
 完新世 
 Holocene 
 更新世 
 Pleistocene 
 第三紀 
 Tertiary 
 新第三紀 
 Neogene 
 鮮新世 
 Pliocene 
 中新世 
 Miocene 
 古第三紀 
 Paleogene 
 漸新世 
 Oligocene 
 始新世 
 Eocene 
 暁新世 
 Paleocene 
 中生代 
 Mesozoic 
 白亜紀 
 Cretaceous 
 ジュラ紀 
 Jurassic 
 三畳紀 
 Triassic 
 古生代 
 Paleozoic 
 ペルム紀 
 Permian 
 石炭紀 
 Carboniferous 
 デボン紀 
 Devonian 
 シルル紀 
 Silurian 
 オルドビス紀 
 Ordovician 
 カンブリア紀 
 Cambrian 
 原生代 
 Proterozoic 
 太古代 
 Archean 
 冥王代 
 Haedean 
 
  
  
 0 
  
  
 0.01 
  
  
 1.7 
  
  
 5.2 
  
  
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 408 
  
  
 439 
  
  
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 570 
  
  
 2500 
  
  
 3800 
  
  
 4550 
 
×100万年
放射年代値はHarland,W. B.ほか (1989) による。
地層は古い堆積物の上を覆うように堆積するので,地層の重なり方から地層の新旧を読みとれる。これを 〝地層累重の法則〟 といい,野外で地層を観察するときの基本である。地層累重の法則を発見したのは,イタリアのステノである。
19世紀になると,イギリスの鉱山技師ウイリアムス・スミスが,それぞれの地層から固有の化石が産出されることに気づいた。これにより地層の区分と対比が可能になり,ヨーロッパ各地で,地層と化石の研究が活発になった。
一方,フランスのキュビエとブロニアールは,パリ盆地の地層を詳細に調べ,時代とともに生物種が大きく移り変わってきたことを突き止めた。そのことから2人は,生物は絶滅と発生を繰り返したと考えた。残念ながらこの考え自体は,当時の人々から無視された。
しかし,産出される化石の種類に基づいて地層が区分され,それをもとに地質時代が区分されるようになった。その結果,地質時代は現在と同じく古生代,中生代,新生代に分けられ,それらはさらに多くの紀に分けられた。

示準化石

地層から,決まった地質時代にだけ産出する化石が見つかれば,その地層の年代がわかる。たとえば,三葉虫化石は古生代初期の地層から多く産出するので,地層の年代を決めるのに使える。古生代の石灰岩から産出するフズリナ化石も時代を決める手がかりである。これらの化石を, ‘示準化石’ と呼ぶ。中生代のアンモナイトや,新生代のビカリヤやナウマンゾウの化石も示準化石である。
1980年代以降,電子顕微鏡による微化石の研究が盛んになり,有孔虫や放散虫などのプランクトンの化石も示準化石に使えるようになった。示準化石としてすぐれているのは,時代とともに形態の変異が大きく,広範囲に分布する生物化石である。有孔虫や放散虫は,この要件を満たしている。

カンブリア紀とシルル紀

セジウィック[解説]とマーチソン[解説]は,ウェールズ地方の古生代の地層を詳しく調べ,2つの地質時代に分けた。彼らは,古代この地方にいた種族の名前から,カンブリア系 (“カンブリア期の地層” の意味。以下同様) とシルル系と名づた。
しかし詳しく調べると,カンブリア系とシルル系には一部重複があることがわかった。そこで,重複部分は,やはりこの地方の種族にちなみ,オルドビス系と名づけられた。
これらの地層が堆積した時代をカンブリア紀,オルドビス紀,シルル紀という。

デボン紀

1840年にセジウィックとマーチソンは,イングランド南部のデボン州に露出する地層をデボン系と名づけた。この地層が堆積した時代をデボン紀という。その後,イングランド南部よりもドイツのライン地方の方が,デボン系の発達がよいことが明らかになった。

石炭紀

中央イングランド北部に露出する石炭を多く含む地層を,2人の地質学者コニベアーとフィリップは石炭系と名づけた。
ただしアメリカでは,石炭系の代わりに,ミシシッピ系とペンシルバニア系という区分が使われている。

ペルム紀

マーチソンがロシアのウラル山脈西麓のペルム地方を訪れた際,石炭系を覆う厚い石灰岩層を発見し,ペルム系と名づけた。
日本ではペルム紀のことを二畳紀ともいう。

中生代の地層区分

中生代は,三畳紀・ジュラ紀・白亜紀に分けられる。三畳系 (三畳紀の地層) は,ドイツの岩塩鉱業技師アルベルティが1834年に認定した。明瞭に区分される3つの堆積岩層で特徴づけられ,化石は少ない。ジュラ系は,スイスのジュラ山地に露出する地層に対して名づけられた。一方,白亜系はド・ハロイ[解説]が1822年にパリ盆地を取り巻く地層に対し名づけた。

新生代の地層区分

新生代は,第三紀と第四紀に分かれる。第三紀は氷河時代よりも前の時代で,第四紀は氷河時代が厳しくなってからの時である。

先カンブリア時代

約5億4000万年より古い地層からは,ほとんど化石が出ない。地球の誕生からこの時までの時代は, 〝先カンブリア時代〟 と総称された。しかし近年,先カンブリア時代の地質学的研究が進み,細かく地質時代が区分された。
地球が誕生した約46億年前から約40億年前までの岩石は,融解したり変成作用を受けたり,マントルへ沈み込んだりしたため,まったく残っていない。この時代を冥王代という。
40億–25億年前が太古代,25億–5億4000万年前が原生代である。太古代と原生代の境界は研究者によって意見が異なるため,ここで25億年前としたのは便宜的なものだ。
最後に,原生代と古生代 (カンブリア紀) の境界は,フィコデス・ペダムという生痕化石の出現で定義されている。

地質時代境界の謎

キュビエは,地質時代の境界で多くの生物が絶滅したことに気づき,その原因は急激な環境変動だと考えた。しかしその考えは,すでに権威を失ったキリスト教のノアの大洪水伝説などの教義を擁護するものとされ,無視された。地質時代の境界における生物大量絶滅の原因論は,その後ながいあいだ,地質学における大きな問題として取り上げられることはなかった。
なぜなら,地質時代の境界は時間軸上の抽象的な概念であり,研究課題としにくかったからである。たとえば,古生代ペルム紀と中生代三畳紀の境界を問題にしよう。これを地層の境界として認定するには,ペルム系と三畳系の境界を認定する必要がある。ある地域では,ペルム系と三畳系は不整合で接していても,別の地域では境界が不明瞭で,境界をどう認定するかの合意も生まれなかった。そのため,地質時代の境界の研究は,地層の境界の認定が主となり,その時何が起こったかは追及されなかった。

© 2002 Gifu University, Shin‐Ichi Kawakami, Nao Egawa.