K/T [解説]境界の粘土層 (イタリア)。 コインは大きさを対比するため。
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K/T境界の上下でのイリジウムの濃度。
(川上紳一. 縞々学 リズムから地球史に迫る. 東京, 東京大学出版会, 1995)
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恐竜絶滅の原因は,寒冷化や生態系の変化など,これまでに多くの仮説が提案された。しかし,それらのほとんどは確かめるられないだった。アメリカのアルヴァレスらは,イタリアの山中の石灰岩層にはさまれる一枚の粘土層に注目した。粘土層を境に恐竜だけでなく海洋で生息する微生物もいっしょに絶滅していたからだ。おそらく,多くの生物は,この粘土層が堆積している間に絶滅へと追いやられたに違いない。問題の粘土層は一瞬に堆積したのか,それともゆっくり堆積したのか。彼らは議論をくり返し,イリジウムの濃度を測定することにした。
イリジウムは白金属元素で,鉄などの金属と親和性がある。地球が形成されるとき,イリジウムは金属鉄とともに沈んで核に取り込まれたので,地表にはごく微量しか存在しない。しかし,宇宙塵 (宇宙から降ってくる微粒子) は,イリジウムを失っていないので高い濃度で含んでいる。
宇宙塵は一定の割合で地表に降り積もるので,粘土層にどれくらい宇宙塵が含まれるかを測定すれば,粘土層の堆積時間を推定できる。宇宙塵の量は,イリジウムの濃度からわかる。アルヴァレスらはそう考えて,イリジウムの分析に挑んだ。
実際にデータを得ると,予想を大きく越えるイリジウムが含まれていた。彼らは結果を検討し,巨大な小惑星が衝突してイリジウムが降り積もったのではないかという仮説にまとめた。
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