生命は熱水で誕生した
オパーリンは,生命が有機物に富んだ原始海洋で発生したと考えた。しかし,海は広大であり,生命の誕生の場としてどんな場所が最適かをもう少し突き詰めて考える必要がある。
簡単なアミノ酸分子が重合して分子数の長いたんぱく質ができるためには,重合反応という脱水反応が起こる必要がある。脱水反応が起こる場所として,磯のような場所で,繰り返し海水が干上がったり供給されたりする場所が考えられる。
生命誕生の場を明らかにするには,このように,化学進化の進行しやすい場所を考えるのが,唯一の方法だった。しかし,1990年代になって,分子生物学的な研究から新しい視点が提示された。
現在地球に生息するすべての生物を一つの系統樹に表し,最も始源的な生物の性質を推定すれば,生命誕生の場について手掛かりが得られる。
原核生物から真核単細胞生物,多細胞生物である動物,植物,真菌類を含めて,ひろく共通して生命活動に重要な役割を担る分子として,リボソームRNAがある。その塩基配列の比較から系統樹が作られた。得られた系統樹には,共通の祖先から枝別れした2つの原核生物のグループがあり,その一つのグループから真核生物が派生していた。系統樹の根元近くには,高温環境に適応した細菌が位置し,根本に最も近い生物は,超好温性細菌だった。
地球の歴史の中で初期に出現した生物に近い生物ほど高温に適応しているということは,時代をさかのぼるほど地球が高温だったということである。共通祖先に近い原核生物は,温度が60° 以上の,温泉が吹き出す環境で見つかったものが多い。このことは,初期地球の生物が海底の熱水噴出系のような環境に生息していた証拠である。
これまでに発見された最古の生物は,西オーストラリアのピルバラ地域で発見された,35億年前の微生物の化石である。この生物は,光合成をして酸素を出すシアノバクテリアと形が似ていたので,浅海域に生息し光合成をしていたと推察されていた。
ところが,日本の研究グループが化石の発見されている地域の地質を詳細に調べた結果,この地域は当時の中央海嶺であり,高温の熱水が噴き出していたことが明らかになった。少なくとも,現在知られている最古の生命化石が熱水噴出系の環境で生息していたことは,分子生物学の結果と符合している。
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