魚類の進化

カンブリア紀初頭までに,現在知られているほとんどの動物群が出現した。その中で優勢だったのは三葉虫類と腕足類だったが,ついでオルドビス紀になると,頭足類,腹足類などが多様化した。
シルル紀になると,魚類が繁栄した。ただし,まだあごがない無顎類だった。その中でもが,からだによろいをまとっていた板皮類が繁栄した。
その後,顎をもった魚類・顎口類がっこうるいが現れた。顎口類は,サメなどの軟骨魚類と,新しい系統の硬骨魚類に分かれた。ちなみに,サメの骨格はほとんどが軟骨なので,歯以外は化石として残らない。
魚類の祖先,つまり,最古の脊索動物は,カンブリアの大爆発ですでに現れていた。バージェス頁岩から発見されたピカイアや,中国の澄江チェンチアンから発見されたユンナンノズーンが,魚類の祖先である。
現生の脊索動物の中では,無顎類のナメクジウオが最も体制が単純であり,魚類の祖先に近い。ピカイアはナメクジウオのような動物だった。無顎類のヤツメウナギは,顎の起源を探る上で注目されている。

条鰭類と肉鰭類

硬骨魚類は,条鰭類じょうきるい肉鰭類にくきるいに分かれる。両者は,胸鰭むなびれの形が大きく違う。主要な魚類のほとんどが属する条鰭類では,放射骨 (平行に走る骨の束) で,胸鰭と肩帯が関節している。これに対し肉鰭類では,胸鰭が一対の放射骨で肩帯と繋がっている。
陸上へ進出した四肢動物は肉鰭類に由来する。現生の肉鰭類は,シーラカンスや肺魚である。
シーラカンス
1938年インド洋のコモロ諸島で発見され,生きた化石として注目された。胎卵性でうきぶくろを備えている。
肺魚
オーストラリア東部のネオケラトドウス,アフリカのプロトプテルス,南アメリカのレピドシレンの3種類が現生するる。淡水性で,ときどき干上がる川や沼に生息している。鰓のほかに肺を備えている。

絶滅した肉鰭類と四肢動物の祖先

絶滅した肉鰭類には,3つのグループがある。シーランカンス類に近いオニコドウス類,肺魚類に近いポロレピウス類,四肢動物の祖先のオステオレピス類である。
オステオレピス類には,ロゾドス類,ユーステノプテロン類,パンデリクティス類などが含まれる。
ユーステノプテロン類は,カナダ・ケベック州のデボン紀後期の地層 (フラスニア階) から多数発見された。頭蓋骨から,この生物が肉鰭類であることがわかった。尾鰭が上下対称なのは,他の肉鰭類とは異なる始源的特徴である。
ユーステノプテロン類は,四肢動物の祖先の魚類として詳しく研究された。しかし,1980年に同じ地層から,四肢動物により近い,パンデリクティス類が発見された。

最古の四肢動物化石

最古の四肢動物は,北極圏の東グリーンランドで発見された。そこでは,20世紀始から,デボン紀後期 (3億6000万年前) の動物化石が産出されていた。
最古の四肢動物であるイクチオステガの発見は教科書などで大きく取り上げられた。
また,1952年にはこの地域で新たな四肢動物であるアカントステガが発見された。1980年代にはよく保存されたアカントステガの化石が発見され,解剖学的研究が進んだ。
イクチオステガ
名前は “魚の鎧” という意味である。
大型の四肢動物で,長さ25 cmもの頭部化石も発見されている。吻部は丸みを帯びて,顔はやや扁平である。口腔には鋭い歯がびっしりと並び,魚類や無脊椎動物を捕食していた。
胴体には,大きく発達した肋骨がある。これは重い体重を支えるためのものである。
足の先端には7本の指がある。前縁の3本は重なるように付いていて,3番目の指が最も小さい。
尾部には尾鰭おひれがあり,魚類の尾鰭と似ている。
こうしたイクチオステガの体のつくりは,魚類から陸上四肢動物への過渡的な動物としての特徴であり,長い間,最古の陸上動物として注目された。
アカントステガ
1980年代にアカントステガの完全骨格が発見され,復元は大きく進展した。その結果,同時代のイクチオステガとは全く体の造りが異なることがわかった。
アカントステガは,イクチオステガより小型で,水中生活をしていた。このことは口腔部や歯の生え方にも現れている。また,四肢の先端は,指があるが,魚類 (肉鰭類) に似ており,水かきとして水中を泳ぐのに使われていた。また,尾鰭も魚類のに似ている。
アカントステガは陸上四肢動物の祖先か,それともイクチオステガのように陸上生活へ適応した後に再び水中生活へ戻ったのか。その進化的位置づけは,今後の課題である。アカントステガ化石を詳しく研究しているケンブリッジ大学博物館のクラック (2000) によると,アカントステガがイクチオステガより四肢動物の祖先に近い。

骨格の比較


ユーステノプテロン (左)・パンデリクティス (中)・アカントステガ (右) の頭骨。
ユーステノプテロンの吻部が狭く,目が前方にあるのに対し,アカントステガでは,吻部が大きくなり,目が後方にあった。このことから,吻部の骨格は陸上への適応にともなって大きくなったことがわかる。
(Clack, J. A. 手足を持った魚たち脊椎動物の上陸戦略. 池田比佐子訳. 東京, 講談社, 2000. p.137)

ユーステノプテロン (上)・パンデリクティス (中上)・アカントステガ (中下)・デンドレルペトン (下) の肩帯から頭部にかけての形態。
魚類から陸上四肢動物への進化の中で,胴体と頭部の間に首ができた。
(Clack, J. A. 手足を持った魚たち脊椎動物の上陸戦略. 池田比佐子訳. 東京, 講談社, 2000. p.144)

ユーステノプテロン (上)・パンデリクティス (中上)・アカントステガ (中下)・デンドレルペトン (下) の体骨格。パンデルクティスは,まだ体骨格のつくりが完全には明らかにされていない。
(Clack, J. A. 手足を持った魚たち脊椎動物の上陸戦略. 池田比佐子訳. 東京, 講談社, 2000. p.156)

なぜ上陸したのか

この問に答えることはたいへん難しい。これまでに多くの仮説が提案されたので,それらを簡単に紹介する。しかしどれも,科学的なデータをもとに検証することは困難である。
気候の乾燥化
デボン紀の終わりに気候が乾燥したことが,魚類が陸上へ進出した原因である。気候が乾燥して湖や池が干上がり,肉鰭類の祖先が陸に取り残された。
水を求めて
古生物学者ローマーによると,肉鰭類の祖先が進化して陸上生活を始めたのは,気候の乾燥化によって陸に取り残されたのではなく,新たな水辺を求めて陸地を移動するためだった。しかし,現在干上がった湖に生息していた両生類は,湖が干上がるとその場で死滅するものが多く,水辺を求めて移動する習性はない。
四肢は歩行用ではない
現生の両生類やワニ類などは,湖が干上がると,泥の中に入り込んで雨期が来るのを待つ。四肢動物の四肢も歩行用ではなく,泥をかき分けるための器官だったのかもしれない。
生態系が窮屈になった
デボン紀には魚類が大きく進化し,海が生態系として窮屈になったので,あるものは新たな生息域を求めて陸上へ進出した。あるいは,獰猛な肉食魚から逃れるためかもしれない。

古生物学者の仕事

古生物学者は,新たな化石を発見し,四肢動物の祖先となった魚類を探求している。また,最古の四肢動物化石の探索にも余念がない。こうした研究によって,魚類から四肢動物が進化したのは約3億6000万年だとわかった。

© 2002 Gifu University, Shin‐Ichi Kawakami, Nao Egawa.