特異な惑星・地球

生命の惑星・地球

宇宙の中で,生命がいることが確かな天体は地球だけだ。1970年代にアメリカは,ヴァイキング計画で火星の生命を探査したが,失敗に終わった。
地球から惑星を観測して,そこに生命が生存していることを知るには,どうすればいいだろううか。
ほかの惑星から地球を観測したとしよう。地球の大気は窒素と酸素が主成分である。酸素は物理・化学的課程では生まれず,光合成生物によって作られる。したがって,地球大気は,この惑星に,光合成をして酸素を発生させてる生物の存在を示している。ラブロック[解説]はそう考えた。
生命が発生し,進化して光合成し,その反応が惑星を改造した。だとすれば,生命に満ちあふれていることは,惑星を特徴づける最も重要な性質である。

月とよく似た表面地形をもつ水星

水星は,太陽系で最も太陽に近い惑星であり,0.3871天文単位の軌道長半径をとって,約88日で公転している。
自転周期も公転周期と同じであろうと言われたが,1960年代にレーダー電波を用いた探査によって,自転周期が58.6日であることが明らかになった。
自転周期が長いため,昼と夜で温度差が大きい。昼は470℃に達するが,夜は−180℃まで下がる。
水星の半径は2440 kmで,木星の衛星ガニメデや土星の衛星タイタンより小さい。密度は5.43なので,中心部に大きな金属核のだろう。地球のような強い双極子磁場は存在しない。
1974–1975年,アメリカの惑星探査機マリナー10号が水星に接近し,表面を撮影した。水星の表面には,月の高地と同様,多くのクレーターが形成されていた。特に,巨大な多重リング衝突盆地であるカロリス盆地の形態は,月のオリエンタル盆地と類似していることで注目された。
水星表面にはあちこちに逆断層地形がある。それらは,水星の体積が縮んで短縮性の変形を受けたことを物語っている。

灼熱の惑星・金星

金星は90気圧の厚い大気を持つため,表面の様子は長いあいだ謎だった。
1970年代–1980年代,旧ソ連が熱心に金星を探査し,探査機を金星表面に軟着陸させた。その結果,金星表面は470℃もあり,大気上層には硫酸の雲があることが明らかになった。金星の表面が高温なのは,90気圧の二酸化炭素の温室効果によるもである。また,地表は溶岩流平原で覆われていることが明らかになった。

金星のサパス山 (火山)。高さ1500 m。
マゼランのレーダー画像。
さらに,1980年代から,アメリカの金星探査機パイオニア・ヴィーナスやマゼラン,ソ連のヴェネラ15号・16号が,合成開口レーダーで,表面地形をマッピングした。金星には多くの火山地形があり,熱的に活動的な惑星であることが明らかになった。
多数の衝突クレーターも発見された。クレーターの数密度から,金星の地殻の形成は約5億年前だとわかった。5億年前に金星を全面的に覆う激しい火成活動があり,広範囲に溶岩で覆われたのかもしれない。
金星と地球は双子の惑星とも言われ,大きさはよく似ている。しかし,表層の環境がこのように全く異なってしまったのは,金星が太陽に近い領域で誕生したためである。
金星には地球のような強い双極子磁場が存在しない。その理由を検討するにはまず,地球にはなぜ双極子磁場があるかを考える必要がある。
地球では,金属の液体である外核の対流運動によってダイナモ作用が磁場を生んでいる。対流運動に必要なエネルギー源は,内核の固化の潜熱だと考えられる。スティーヴンソン[解説]は,金星の内部構造を研究した。彼によると,金星は地球よりわずかに小さいため,金属核は中心部まで融けており,ダイナモ作用のためのエネルギーが不足している。

酷寒の惑星・火星

火星には火星人が住んでいるのではないかと長い間考えられてきた。しかしその考えは,1960年代に始まった探査機による火星探査でことごとくうち砕かれた。1960年代のマリナー4号・6号・7号の探査によって火星の表面に多数のクレーターが確認され,火星の世界は月世界と似た荒涼とした世界だと見なされた。
しかし,1971年のマリナー9号は,新たに火山地形や河川地形を発見し,火星は,球と似た性質をもつ惑星として再び注目されるようになった。1976年のヴァイキング1号,2号は,火星の生命を探査した。火星隕石ALHA84001[解説]が分析され,生命の痕跡かもしれない構造が見つかった。この発見は,火星への興味を掻き立てさせた。それ以後,アメリカは次々と探査機を火星へ送り込んで成果をあげた。

火星のオリンパス山 (火山)。
高さ25 km,直径550 kmの,太陽系最大の火山。
マーズ・グローバル・サーヴェイヤーの光学画像。
火星の半径は約3500 kmで,質量は地球の1⁄8にすぎない。内部温度は低く,火山活動は終わってしまった。とはいえ,形成されてまもないころには,マントルの上昇流域にあたるタルシス地域に大量のマグマが発生し,巨大な成層火山を生み出した。しかし,そうした活動的な地域は限られており,南半球は多数のクレーターで覆われた古い地殻が広がる。
現在の大気圧は7hPa[解説]で,そのほとんどは二酸化炭素である。極域には水の氷とドライアイスの極冠があり,極冠と大気の間の物質交換が,大気圧と表面温度を左右している。表面温度は平均−40℃だが,極冠地域では−120℃まで低くなる。

火星の湖の痕跡。
クレーターの縁の谷は川の跡,中央 (画像右) の黒い部分は湖底堆積物と思われる。
マーズ・グローバル・サーヴェイヤーの光学画像。
1970年代のヴァイキング計画で,多数の河川地形が発見され,かつては湿潤な気候だったことが示唆された。1990年代のマーズ・オブザーバー計画では,さいきん水が流れてできた地形が発見され,地下に水が存在している可能性が高まった。また,最近のマーズ・オディッセイ計画では,火星表面における水の分布がマッピングされている。
火星の寒冷な気候の原因は,太陽からの距離が遠いことと,重力が小さく,大気が薄く温室効果が小さいことである。

月には大気がない

月は地球から38万kmの軌道を約27日で公転する衛星である。半径は1740 km,密度は3.34g⁄cm³と,地球 (5.51g⁄cm³) よりはかなり低いが,地球のマントル物質であるかんらん岩よりはわずかに大きい。そのため,中心に小さい金属核が存在すると言われている。
月の表面は,肉眼で見て白い高地と,黒い海からなる。高地は斜長岩質の岩石でできているのに対し,海を覆う岩石は玄武岩質であり,天体衝突で生まれた巨大なクレーターにマグマが流れ込んでできた。月の高地は,形成期にマグマの海ができ,その結晶分化作用で密度の小さい鉱物が地表付近に集まって形成されたと考えられる。
月の岩石の化学組成は,地球のマントルの岩石とよく似ている。ただし,揮発性の元素 (水素・酸素・窒素など) は地球より少なく,大気も存在しない。月はもともと,大気を構成する成分に乏しかったうえ,重力が小さく大気分子を保持できなかった。なお,惑星だが大気を持たない水星も,半径2440 kmと,惑星の中では小さいグループに属する。このことは,厚い大気をまとうためには,材料物質に大気を作る成分が含まれていることのほか,適度な大きさが必要である。

地球の特異性

地球の特異性として,まず,液体の水が存在できる表面環境が挙げられる。適度な大気圧と表面温度でないと,液体の水は存在できない。たとえば,大気圧が1気圧では,表面温度は0–100℃である必要がある。
太陽との距離が違う金星や火星が水惑星でないことから,地球と太陽の距離が水の存在に適した値であることがわかる。また,厚い大気をまとうことは,地球が適度に大きな惑星であり,地球を作った材料物質に大量の水が含まれていたことによる。
46億年前に地球が水惑星として誕生し,化学進化によって生命が発生した。この化学進化と生命の発生が実際に起こったという点でも,地球は特異である。
また,発生した生命は,進化をとげ,光合成によって有機物を合成した。光合成反応で発生する酸素が大気に蓄積され,地球大気には酸素が豊富に含まれるようになった。地球は,酸素を大量に含む大気を持つ点でも特異である。
さらに,月の存在も見逃せない。地球型惑星の中では,火星にも衛星が2つあるが,それらは直径が30 km以下で,太陽の回りを公転していた小惑星が,たまたま火星の重力圏に捕まったものである。これに対し,月は地球の60分の1の質量をもつ。この重力が,潮汐作用によって地球表層環境を周期的に変化させ,表層環境や生物進化に少なからぬ影響を与えた。

地球環境の形成

このように太陽系の一員として地球を眺め,地球環境の特徴を調べていくと,私たちが当たり前と思っている環境は,決して所与のものでないことがわかる。
地球環境は,太陽系の形成過程,地球の歴史の中で移り変わってきた。すなわち,地球環境は時代とともに移り変わっていくものであり,環境を規定する要因も変化していく。
地球環境の変化を予測し,保全するには,地球環境の成立過程や安定性を深く理解していなければならない。

© 2002 Gifu University, Shin‐Ichi Kawakami, Nao Egawa.