風化という言葉は,“ボロボロになる”,“枯れていく”といった意味として日常生活のいろいろな場面で使われていますが,もともとは『岩石が地表の条件下で変化していく過程』と定義される地学用語です。時間が経つとともに,岩石が雨・風にさらされて新鮮でなくなっていくという印象を誰もが持っていますから,日常生活での用語に転用されていったのだと思われます。
 風化作用は,それをもたらす原因によって物理的(機械的)風化作用と化学的(鉱物学的)風化作用に分けられます。花こう岩においては,どちらの風化作用もほかの岩石よりも顕著に起こる傾向にあります。ただし,それらは,岩体の形成過程や気候条件など,さまざまな条件がからんで起こりますから,どの花こう岩体においても一律に起こっているわけではありません。


≪物理的(機械的)風化作用≫
 地表面に露出する岩石が自然界の力により壊されていく現象を物理的(機械的)風化作用といいます。その力は,温度変化による岩石自体の膨張・収縮,岩石の割れ目にしみ込んだ水の凍結・融解による膨張・収縮など,おもに地表付近における気象条件の変化がもたらしていると考えてよいようです。それは歪みに対するストレス解消を意味しています。

1)マサ化
 膨張・収縮の割合は岩石中に含まれる鉱物の種類により異なり,同一の鉱物でも方向により異なります。等粒状完晶質の花こう岩では,鉱物同士が密着して接しています。そこで差別的な膨張・収縮がおきると,結合力の弱い鉱物粒の境界に割れ目が生じて,ほぼ鉱物粒の単位でばらばらにされ,砂粒(あるいは細礫)を生成していくことになります。この粒を“マサ(真砂)”といい,こうした粒状化を“マサ化”といいます。
シーティングの例(準備中) 2)シーティング現象
 花こう岩のように地下にあった岩石が地表にもたらされると,周囲の圧力から解放され,岩石自体が膨張して割れ目を生じます。これをシーティング現象といい,一種の物理的(機械的)風化作用になります。その割れ目に沿ってしみ込んだ雨水が凍結・融解を繰り返すことで割れ目が拡大していき,風化作用がさらに促進されていきます。

マサ化が進行し始めた花こう岩の露頭(恵那市)
3)風化殻
 地表面から岩盤までの風化作用が及んでいる範囲をまとめて風化殻といいます。風化の進行程度は地下へ向って徐々に弱まっていくはずですから,風化殻は堅い岩盤と不連続に境されるわけではありませんが,理屈の上では地表面にほぼ平行に岩盤を覆う殻のように分布することになります。

マサ化による風化殻がまったくない花こう岩の露頭(中国・福建省)
4)マサ化の引きがね
 マサ化は,等粒状完晶質の岩石であれば必ずどこでも起きるわけではありません。例えば,中国・福建省には,日本の白亜紀・古第三紀のものに相当する花こう岩が広く分布していますが,マサ化した風化殻ほとんど見られません。詳しい検討をしたわけではありませんが,マサ化にはそれを手助けするような作用が実際には必要なようです。気候的条件あるいは地質時代にたどった経過に違いがあるのかもしれません。

マサ化が進行した花こう岩の露頭
(瑞浪市)
5)マサ化の実態
 日本においてほぼ同じような気候条件下に置かれた花こう岩でも,マサ化を同じように起こしているわけではありません。形成された時代の差異,同じ時代に形成された岩体でも分布地域による差異,岩質・岩相による差異,同一岩体でも地域による差異など,マサ化の程度はかなり異なります。
6)化石風化殻
 現在進行しているマサ化だけで風化殻が形成されているのであれば,風化殻は地表面にほぼ平行に広がっているはずです。ところが,マサ化を受けている状況は場所によりかなり異なっています。じつは,現在見られるマサ化した花こう岩の露頭は,過去の地質時代に長時間かけて形成された風化殻の残骸にあたります。こうした過去の条件下で形成された風化殻を化石風化殻といいます。

マサ化した花こう岩による造形美
(恵那市・傘岩)
7)マサ化の役割
 花こう岩におけるマサ化は,堅固な岩石がばらばらにされて粒状になることですから,それだけ弱い地盤を形成することになります。さらには,水に接する表面積が増えることになりますから,化学的(鉱物学的)風化作用を促進させる要因となります。過去の地質時代に大規模にマサ化が進行した地域では,同時に化学的(鉱物学的)風化作用も大規模に進行したことになります。



≪化学的(鉱物学的)風化作用≫
 岩石が地下水や地表水,あるいは空気と接触することで,特定の成分が溶け出したり,取り込まれることで,岩石中の鉱物が別の鉱物に変化していく現象を化学的(鉱物学的)風化作用といいます。別の鉱物といっても何にでも変わるわけではなく,地表の条件で安定な鉱物に変化していきます。

1)ストレス解消
 火成岩中に含まれている鉱物は,マグマから高温あるいは高圧という条件下で晶出したものです。鉱物にとってはそうした条件が安定な条件下にあることになります。そうした鉱物が地表という常温常圧の条件下に置かれると,それはきわめて不安定なストレス状態にさらされていることになります。そうなると,鉱物は地表の条件下で安定な鉱物に変わろうとして,ストレス解消をしようとします。これが化学的(鉱物学的)風化作用です。
2)花こう岩のストレス解消
 花こう岩中の鉱物はすべてマグマから晶出したものであり,地表では明らかに不安定なストレス状態に置かれています。そのため,水との反応などを通じて化学変化をおこしてストレス解消をし,地表で安定な鉱物に変わろうとしています。このストレス解消は花こう岩の中ですべて一律に起こるわけではなく,最も多量に含まれている長石類において典型的に起こります。

風化作用における正長石の化学変化例
3)粘土形成
 長石類が地表でストレス解放をするためには,やはり補助手段がいります。それは人間のストレス解消にいろいろな補助手段がいるのと似ています。水との反応などを通じて,原子・イオンの移動や結晶構造を変化させることで,地表で安定なカオリナイトなどの粘土鉱物を生成していきます。