理科教材データベース
岐阜大学教育学部理科教育講座(地学)
しめりの海
湿りの海(Mare Humorum) 月齢11日から12日にかけて、月の明暗境界線付近にくっきり見える海が湿りの海であ る。ほぼ円形に近い形をしており、その直径は400km。海の周辺にはおびただしい 数のクレーターが分布しているが、湿りの海を形成させた衝突の痕跡は残っていない 。恐らく40億年以上も前に巨大な天体が衝突して円形のくぼ地(ベースン)が形成さ れたのだろう。その低地へ玄武岩質の溶岩が流れ出した。湿りの海にはクレーターの 数があまり多くない。そのことは溶岩が流れだしたのはずっと後の時代で、おそらく それは30億年前ごろであることを物語っている。惑星科学者は、クレーターの数を数 えて天体表面地形が形成された時代を研究しているのだ。 湿りの海のなかを詳しく観察するとうねったしわのような地形が何本も走っている のがわかる。リンクルリッジと呼ばれている地形である。溶岩流が流れた台地が圧縮 力を受けて褶曲してできたものであると考えられている。 湿りの海の南側に注目すると、病の沼(Palus Epidemiarum)と呼ばれている小さな 海の存在に気づく。その境界付近には南北方向の細い谷状地形が形成されている。そ の幅は数10km、長さは数100kmに達する。それらにはメルセニウムの割れ目、リ ービッヒの割れ目といった名前がつけられている。このような地形は、伸張変形を受 けたことを物語っている。 次に周辺に分布するクレーターに注目してみよう。南側には比較的大きなクレータ ーが集まっている。もっとも東側でくっきりとした地形をとどめているのが、ヴィテ ロ(Vitello)である。直径は45km、深さは1.7km。その横にあるクレーターは流れ 出した溶岩流で半分埋まり、湿りの海の入り江となっている。 湿りの海の北側にはくっきりした孤立のクレーターがある。直径110kmのガッセ ンジー(Gassendi)だ。くっきりとした中央丘(central peak)と複雑にリルが走るクレ ーターの底が特徴的である。
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