理科教材データベース
岐阜大学教育学部理科教育講座(地学)
授業実践に関する新聞記事
読売新聞大阪本社版朝刊(2002年6月12日付)
 科学面(33頁) 1187字 05段
この記事は、読売新聞社の許諾を得て転載しています。





地学離れ深刻 入試に課す大学減少
研究者ら復権へ試み
 地震や火山、気象、天体などを学ぶ地学の授業が、学校から消えつつある。 地学を課さない大学入試の急増が背景にあり、地球科学の研究者らは「世界をリードしてきた日本の地学が滅びかねない」と危機感を募らせる。東京都内で五月二十七日に行われた地球惑星科学関連学会での発表を中心に、現状を報告する。

 「(河原の野外観察で)岩が砕けて、こんな砂になるって本当ですか」「銀河系と太陽系って、どっちが大きいんですか」
 大東文化大の中井睦美・助教授(理科教育)が「最近の大学生からのギョッとした質問」を紹介した。地学の基本知識を身につけていない学生が大半という。
 それも無理はない。中井助教授は今春、都内の七大学の一、二年生を対象に、高校時の理科履修状況を調査。理科系学生では、物理、化学、生物を学んだのは各30―40%だったのに、地学は6%だった。
 かつて高校では理科全四科目が必修だったが、「ゆとり教育」の方針に基づき、一九九四年から二科目選択に転換。入試科目は、化学と生物を課す大学が多く、地学受講生は激減した。
 現在、地学を開講している高校は全国で約四割、地学教員の新規採用はゼロに近く、「興味はあるのに勉強できない」という高校生の不満も強い。小中学校でも、大学で地学を専攻した教員はごく少数。今春からの新学習指導要領で野外観察が重視されたが、指導できる教員がいないのが現状だ。
 地震学者の島村英紀・北海道大教授は、同学会での講演で「地学は、生きている地球や宇宙の息吹を感じ取る学問。学校の教員が研究現場へ出かけ、その感動を生徒に伝える工夫をしてはどうか」と提言した。
 実際に、大学と学校が協力して魅力ある授業を展開し、生徒の関心を引きつけた好例もある。川上紳一・岐阜大地学科助教授の研究室は、地元の中学三年生を対象に行った金星観察の実践を報告した。
 中学生たちは、大学生らの指導で作った手作り望遠鏡などで、三か月にわたって、宵の明星の満ち欠けが変化していく様子を観察。大学は天体望遠鏡でとらえた金星の画像をインターネットで流し、中学生たちは、学校にあるパソコンで画像と自分のスケッチを比較した。
 電球を使って満ち欠けを検証する実験も実施。金星が今、公転周期のどの段階にいるのかを突き止めることができ、「宇宙への興味が高まった」「観察の面白さや大切さがよく分かった」といった感想が出された。
 地学衰退への懸念の高まりを受けて、復権に向けた試みも始まっている。日本地震学会は昨夏、伊豆大島で「地震火山・世界こどもサミット」を開催。小中高生百六十五人が参加し、火口の見学や溶岩流出の仕組みを理解する実験などを通じて、大自然の脅威に触れた。高校での進路指導に活用できる「地学を学べる大学一覧表」を作成するなどの対策も練っている。

写真=電球を使って、金星の満ち欠けを検証する中学生たち(川上紳一・岐阜大助教授提供)