地球最古の鉱物粒子ジルコン

44億年前の海の証拠

最古のジルコン粒子の発見場所、ジャック・ヒル地域の地質図。ズーム
最古のジルコン粒子の発見場所、ジャック・ヒル地域の地質図。
Reprinted by permission from Nature Mojzsis et al. 2001 Figure 1 copyright 2001 Macmillan Publishers Ltd.
ジルコン粒子のδ18Oと年代。年代は鉛‐鉛(207Pb‐206Pb年代)放射性年代。ズーム
ジルコン粒子のδ18Oと年代。年代は鉛‐鉛(207Pb‐206Pb年代)放射性年代。
右縦軸(δ18OWR)は、ジルコンが結晶化するもととなった全岩(whole rock)の値。
いちばん左の、4.3 Gaのものが、Mojzsisが新たに発見・年代測定したジルコン。
Reprinted by permission from Nature Mojzsis st al. 2001 Figure 2 copyright 2001 Macmillan Publishers Ltd.
地球は46億年前に微惑星の集積によって形成された。衝突の熱で形成期の地球は融解し、金属の核と珪酸塩のマントルとに分化した。揮発性物質は脱ガスして大気と海になり、地球表面はマントルからさらに分化した地殻に覆われた。
しかし、これまで、このような初期地球のようすを記録した岩石はまったく発見されていなかった。
地球最古の岩石鉱物は、ウェスタン・オーストラリアのジャック・ヒル地域などで発見された、粒径1 mmにも満たないジルコン(ZrSiO4; 鉱物の1つ)粒子である。しかし、その年代は最古のものでも42億年前であった。地球形成から最初の約4億年間に形成された鉱物は存在しなかった。
しかし、ジャック・ヒル地域ではさらに古いジルコン粒子が発見される可能性が残されている。地質学者たちは、最古のジルコン粒子の探索を目指し、先陣争いにしのぎを削っている。
ウィスコンシン大学のペック(W. Peck)らは、ジャック・ヒル地域で44億年前のジルコン粒子を発見した。そのことは、2000年11月13日から16日にネバダ州レノで開催されたアメリカ合衆国地質学会で報告され、2001年に‹Nature›に掲載された(Wilde et al., 2001)。彼らはウラン‐鉛年代を測定して、ジルコン粒子が44億年前に形成されたことを示した。
ジルコンは、花崗岩などシリカに富んだ火成岩を構成する鉱物である。花崗岩を構成する石英や長石などのほかの鉱物に比べて、風化作用や変成作用に強い。Peckらが発見したジルコン粒子も母岩が侵食されて堆積した礫岩中から発見されたものである。
たった1粒のジルコン粒子でも、それが分化したマグマから形成される鉱物であることは、当時すでに大陸地殻の形成が始まっていたことを物語っている。しかし、1粒の鉱物粒子でも読み出される情報はそれだけにとどまらない。
彼らはさらに酸素同位体比を測定した。得られた値は、若い時代のジルコン粒子に比べても際だって高い値δ18O = +8.5~+9.5‰だった。このような高い酸素同位体比は、低温下で液体の水との相互作用を受けたものと解釈された。すなわち、当時すでに海があった可能性があるわけだ。
一方、カリフォルニア大学のS.J. Mojzsis et al. (2001)も、ジャック・ヒル地域の岩石中から約43億年前のジルコン粒子を発見し、その酸素同位体比から、当時すでに地表付近に水が存在したことを論じている。
Peckらの発見は、地球最古の岩石記録を書きかえたことで注目されているが、当時すでに海があったことを示唆したことは、より多くの研究者の関心を惹いた。
文献
Wilde, SA; Valley, JW; Peck WH; Graham CM. 2000. Evidence from detrital zircons for the existence of continental crust and oceans on the Earth 4.4 Gyr ago. Nature. 409, 175–178.
Mojzsis, SJ; Harrison TM; Pidgeon RT. 2001. Oxygen‐isotope evidence from ancient zircons for liquid water at the Earth’s surface 4,300 Myr ago. Nature. 409, 178–181.