図2. 生物地理区から復元された大陸配置。
(ウィルソンの1966年の研究にもとづく)
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図3. 復元されたイアペタス海(古大西洋)。
(ウィルソンの1966年の研究にもとづく)
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図1は、古生代の生物地理区を示したものである。この図には、「太平洋型生物群集」と「大西洋型生物群集」が示されている。太平洋型生物群集は、北米大陸に広く分布しているが、海を隔ててグリーンランドやイギリス、スカンジナビア半島西部にまで分布していることが読みとれる。また、大西洋型生物群集は、ヨーロッパや北アフリカに分布しているが、大西洋を隔てて北米のニューファウンドランドにも分布が確認されている。
ウイルソンは、こうした海洋を隔てた場所に共通の生物種で特徴づけられる生物群集が分布していることは、現在の大西洋が形成される前に大陸が集まって一つの大きな大陸をつくっていたためであると考えた(図2)。これはウェーゲナーの大陸移動説でも説明されてきたものであり、彼の論文の重要性は別のところにある。
それは、イギリス、スカンジナビア半島西部、ニューファウンドランドなどで、異なる生物群集で特徴づけられる地塊が境界線で区切られるように隣接して配置していることの意味を読み解いたことである。ウイルソンによると、このような生物地理区の不連続は、かつてこの境界線には広大な海洋が広がっており、生物種の違いは地理的隔離によるものとされる。海を隔てて広がっていた地塊は、海洋が閉じていくにつれて互いに接近し、最後には海は消滅して巨大な造山帯が形成されたのではないか(図3)。
ウイルソンは、こうした仮説を裏づけるため、生物区の境界付近の地質構造を検討し、それらが断層によって接していることを指摘した。また、北米のアパラチア山脈付近では古生代末から中生代初期にかけて大西洋側から土砂が運ばれて堆積盆地が形成されていることもこうした大陸の歴史を反映したものであると主張した。
ウイルソンの考えを要約すると次のようになる。古生代には北米大陸とヨーロッパを隔てて古大西洋があった。やがてこの海は短縮して北米とヨーロッパが衝突し、アパラチア山脈ができ、ヨーロッパではカレドニア造山運動が起こった。中生代になると大陸の真ん中にリフトができ、再び海洋が拡大して現在の大西洋ができあがった。
こうした海洋底の拡大と消滅のサイクルは、ウイルソンのこの論文がきっかけとなって生み出された概念であり、ウイルソンサイクルと呼ばれている。また、古生代にあった古大西洋はイアペタス海と呼ばれている。
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