理科教材データベース
岐阜大学教育学部理科教育講座(地学)
可児郡教育研究会 理科部会研修会 野外見学記
投稿  K.M.

2005年6月1日(水)午後,小井土由光氏(岐阜大学教育学部)に案内をお願いして,
可児郡御嵩町とその周辺地域において地質に関する研修会を行ないました。


〜 その1 「花こう岩の素顔にビックリ」 〜

鬼岩公園付近  最初に,鬼岩公園の奇岩が眺められる地点で花こう岩(土岐花こう岩)について説明を受けました。
 花こう岩は“深成岩”と呼ばれることで,地球内部の深い場所で冷え固まったと考えられ,学校でもそのように教えているが,真相はどうなのでしょうかと問われ,最初からビックリです。
鬼岩公園付近  花こう岩に貫かれている岩石・地層が存在していた深さが根拠となって,意外に地表に近い場所で固まったとのことです。ということは,それほどの苦労せずに地表に顔を出すことができることになります。
鬼岩公園付近 花こう岩は,固まっていく過程で体積が小さくなり,一辺が1〜数mほどの直方体(立方体)に割れ目が入ります。この割れ目に沿って風化し,崩れていくため,花こう岩独特の景観が生まれます。「崩れ去っていく姿に美しさを求める人間の美意識は?」などと考えてしまいました。
鬼岩公園付近  このほかにも,花こう岩についていろいろな説明を聞きました。
 花こう岩は,風化して鉱物の大きさに割れ,大量の砂(これをマサという)を作りやすい岩石であり,これが崩されて,土砂災害の元凶になったり,下流に運ばれて,平野を作る材料になっている。
 花こう岩に最も多く含まれる長石は,地表の条件下で安定な粘土鉱物に変化し,それがこの地域の陶磁器産業を生んでいる。「お茶碗を持って花こう岩を思い浮べることができますか?」と聞かれてしまいました。
 硬い岩石としても,崩れた土砂としても,さらには粘土としても,いろいろな形で私たちの生活に結びついていることを再認識しました。


〜 その2 「マサ化によって,まさかの姿に」 〜

松野湖畔  2番目の観察地点は松野湖畔で,風化が進んだ花こう岩の露頭です。
 膨張率の異なる鉱物が等粒状に埋め尽くしている岩石では,温度変化に対応して鉱物単位でバラバラにされてマサを作ります。これは花こう岩独特の風化で,“マサ化”といいます。
松野湖畔  ハンマーで簡単にけずれるほど,鉱物がボロボロになって崩れていく様子に,いささか驚きました。露頭の表面も丸みをもっています。「まさか! 硬いはずの花こう岩がこんな姿になってしまうなんて。」
松野湖畔  この露頭には,花こう岩の中を走る小さな断層が見られました。岩石に力が加わって,歪に耐えられなくなると割れ目を生じて“ストレス解消”をしたのが,断層だと説明を受けました。大地は,人間のようにお酒は飲めませんが,それなりに“ストレス解消”をしているとの例えは印象的でした。
 「ところで,断層ができるときにお互いに擦れあうから断層粘土ができるといわれているが,本当か?」と問われました。確かに,擦られるだけで細かな粘土ができるのかとも思いますが,当然のように考えていることに意外な答えがあるようです。


〜 その3 「水中に降りそそいだ火山灰層はうわずみ」 〜

御嵩町津橋:平牧塁層  3番目は,御嵩町津橋の道路沿いに露出する平牧累層を観察しました。
 平牧累層は,御嵩町周辺に広がる地層ですから,地層の学習教材としてもよく使われます。この露頭では,全体に火山噴出物が水中に堆積したものであるとの説明を受けました。
御嵩町津橋:平牧塁層  どうしても白色の火山灰層に注目してしまいますが,水中に降りそそいだ火山噴出物が重い(粗い)ものから順に堆積していったことで,全体をみる必要があること,白色の火山灰層は最後のうわずみのようなもので,決して本体ではないことを強調されていました。


〜 その4 「もとの姿も知っておこう」 〜

御嵩町津橋:砕石場  4番目の観察地点は,同じ津橋にある花こう岩の砕石場です。
 松野湖畔で観察した花こう岩とまったく同じ土岐花こう岩ですが,見た目の印象はまったく異なり,新鮮で,硬さや色調がまったく違った岩石でした。これが花こう岩のもとの姿になりますね。
御嵩町津橋:砕石場  硬い花こう岩の中にわずかですがペグマタイトがあり,その中にある空洞にみごとな水晶の結晶ができていました。お土産をゲットしました。これはマグマ中に取り残されたガスが集まってできたもので,マグマ溜りの天井部分に集中してできる傾向にあり,最後まで結晶に入れなかった元素が濃集しているので,奇産鉱物ができやすいそうです。


〜 その5 「御嵩の町に火口があるらしい?」 〜

御嵩町「御嵩の森」公園付近:平牧塁層  最後は,「御嵩の森」公園に通じる南山団地からの散策路沿いに露出している平牧累層でしたが,津橋で見学した平牧累層の様子とかなり異なっていました。
御嵩町「御嵩の森」公園付近:平牧塁層  凝灰岩層のような部分もシルト層のような部分もあります。場所によっては,それらが巨大な礫として含まれていたり,岩脈状にシルト岩が貫いていたり,あまり地層の学習には向かない“奇妙な”露頭でした。形成過程がまだよくわかっていないようで,巨大な礫が,ここより西方へ向かって大きくなり,多くなることから,火山噴出物の出口(火口)が西側の近傍にあるらしいとのことです。本当かな?


反省点:  日ごろから岩石や地層の写真を撮る習慣がないと,どうしても人物を中心に撮影してしまいます。人物の入った写真は,見る側からするとそれなりに意味があると思いますが,肝心の教材として見るには適切な被写体の撮影が大切になります。しかもスケールを常に忘れずに。外部の方が見ても役に立つ見学記にするように心がけたいと反省しています。
K.M.