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断層[11] 江名子断層・宮峠断層
~泣き別れの原因~

 
 
  
【豆知識】

分水嶺は太平洋へ流れる河川と日本海へ流れる河川の泣き別れの場所である.それが県境ではなく,県内にあるという都道府県は意外と少ない.中部地方では長野県と岐阜県の2県だけであり,それだけ南北に広がっていることを意味する.岐阜県内において県境を除いた分水嶺で主要国道が横切っているのは41号線の位山(くらいやま)分水嶺と156号線の蛭ヶ野分水嶺である.位山分水嶺では,北側の高山盆地側に江名子(えなご)断層が,南側の久々野町側に宮峠断層がそれぞれ北東–南西方向に走り,これらの活断層に挟まれた地塊が上昇したことにより分水嶺ができている.
江名子断層は高山市東部の滝町から飛騨一之宮へかけての約13kmにわたり続き,その南西延長では清見村南部まで続く大原断層へとつながる.跡津川断層と同様に,かなり明瞭な水平右ずれ断層であり,逆断層としての垂直ずれの変位をともなう.最大水平変位量は約500mであり,河川や尾根の屈曲などの断層地形を明瞭に形成している.垂直ずれは約300mの比高をもつ直線的な断層崖で示され,この変位によって位山分水嶺が形成されたことになる.その運動開始時は第四紀の初期であり,それまでに丹生川火砕流堆積物が流れたり,河床礫層などが堆積したところが泣き別れを起こしていった.宮峠断層は,朝日村の美女峠付近から宮村南部までの約8kmほど続く断層で,最大約300mの水平右ずれ変位と約200mの逆断層の垂直ずれ変位をもつ.基本的には江名子断層と同じような断層地形を明瞭にもつ活断層であるが,江名子断層の活動開始後に堆積した地層も変位させていることから,少し遅れて活動を始めたようである.これらの断層は,跡津川断層や阿寺断層などの長大な活断層系内部の1本の断層線に相当するぐらいの規模の小さな活断層である.それにしても1年でわずか0.3mmの変位量が100万年後に300mの垂直ずれを生じ,泣き別れが起こってしまうのである.

【関連項目】 地形[6] 位山分水嶺
断層[4] 岐阜県の活断層
断層[5] 水平ずれ活断層
断層[12] 跡津川断層

【キーワード】 江名子断層,大原断層,逆断層,位山分水嶺,水平右ずれ断層,宮峠断層

【関連文献】
梶田澄雄・鹿野勘次 (1988) 高山盆地の発生と生いたち.「飛騨の大地をさぐる」,74–93.教育出版文化協会.

【余談】
今でこそ車や鉄道を使ってわけなく越えられる分水嶺であるが,かつては人間にとっても生活圏を制限する大きな障害物であった.そのため行政区分の境界となり,県境や市町村界になる場合が多い.にもかかわらず岐阜県内には町村内に分水嶺をもつところが3つもある.西ウレ峠のある清見村,蛭ヶ野分水嶺をもつ高鷲村,桧峠のある白鳥町である.「だから何なの? 」と言われそうであるが,それぞれに歴史的経過があるようで,詳しくみるとおもしろそうである.

『学習テーマ』
小学6年「土地のつくりと変化 (地震) ―断層
中学1年「大地の変化 (地震) ―断層


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