地下資源 〜地下からの贈り物〜
  石材と異なり,岩石そのものを利用するわけではありませんが,地表ないし地表近くに現われた花こう岩体あるいはその近傍からは,花こう岩のマグマに由来する有用地下資源が得られます。ほとんどの場合,マグマ中に含まれていた特定の成分がいろいろな過程を経て濃集していったことで鉱床となるものです。見方を変えれば,それらの多くは花こう岩の形成過程において仲間はずれにされ,はじかれていったことで,私たちの生活に役立つ資源となっていることも知っておいていいでしょう。



≪熱水鉱床≫
 マグマ中に含まれている特定の成分は勝手に濃集していくわけではありません。おもに水という運び屋が関与して濃集していきます。マグマ中に含まれるH2Oは,温度・圧力の低下とともに飽和してマグマ溶液から分離します。そのほとんどはマグマ固結の最終段階まで結晶内に取り込まれることなく,マグマ内に残されていきます。これを熱水といい,それが運び屋となって形成された熱水鉱床はいろいろな火成岩にともなわれますが,ここでは花こう岩に関係するものだけに限って触れておきます。

 熱水の中には,やはり結晶に取り込まれにくかった元素(とくに金属元素)が溶け込んでいることが多く,こうしたものが花こう岩体周囲の岩石中にある断層や割れ目に沿って浸透していくと,有用鉱物を濃集させた鉱脈を形成します。鉱床を形成するような熱水を鉱液といいます。有用鉱物の濃集がない場合には,単なる石英脈やアプライトが形成されます。
1.スカルン鉱床

 花こう岩体の周辺に石灰質の岩石が存在し,そこに鉱液が浸透して反応することで新たな鉱物を生み出すことがあります。こうした鉱床をスカルン鉱床といいます。これは石灰岩(CaCO3)との反応ですから,Ca成分に富む珪酸塩からなる鉱石を生み出します。具体的には,鉄(岩手県の釜石鉱山が有名)や亜鉛(岐阜県の神岡鉱山が有名)などの鉱床を形成しています。
2.斑岩銅鉱床

 鉱液の主体がマグマ溜り内部に留まり,花こう岩体の縁辺部で花こう岩自体と反応して,比較的高温の状態で変質帯を形成することがあります。これをグライゼンといい,モリブデン(Mo)やタングステン(W)などを含む有用鉱物が形成されます。斑岩銅鉱床(ポーフィリーカッパー鉱床)と呼ばれる鉱床はその代表的なもので,花こう岩体の天井部付近に形成された半深成岩内にしばしば銅鉱床を中心として鉱脈を作っています。
3.ペグマタイト鉱床

 ペグマタイトは花こう岩の一部にあたりますから,花こう岩自体を資源にしている例になりますが,その中に含まれる熱水が特定成分をもたらしているとみてもいいようです。
 この鉱床に形成されているおもな鉱物は石英・長石類ですから,窯業原料やガラス製品となる非金属資源が主体をなします。それ以外では,リチウム(Li)などのアルカリ金属元素,フッ素(F)などのハロゲン元素,ベリリウム(Be)・タングステン(W)・モリブデン(Mo)などの希土類元素など微量元素を含むかなり多岐にわたる鉱物が資源となります。とりわけ,希土類元素は需要の高まりが期待され,重要な資源になると考えられます。



≪ウラン鉱床≫
 日本での発電量の約1/3を占める原子力発電に用いられるウランやトリウムなどの放射性元素も花こう岩から得られます。火成岩中のウラン含有量は塩基性岩よりも酸性岩で4倍ほど多く,平均3.5±0.5ppmとされています。ですから,花こう岩中には相対的に多くのウランが含まれていることになりますが,他の地下資源のように岩石中から直接取り出すほど多くは含まれているわけではありません。

 多くの放射性元素は,イオン半径が大きいために,マグマ中においては固結時に結晶の中に入りにくく,最後まで液体中に残りやすくなります。それらは気泡などとともにマグマ溜り最上部に濃集します。花こう岩では,この部分が地表に露出すると真っ先に削剥され,これらの元素は水に溶け出し,酸化・還元条件の変化により地層中の沸石などに吸着したり,さらに溶け出したりして,地層中に濃集部を形成していきます。大部分のウラン鉱床は,もともとは花こう岩中に含まれていたものが最終的に堆積岩(地層)中に濃集して形成されていきます。
 岐阜県東部の土岐市・瑞浪市地域周辺には,「東濃鉱山」の名で知られたウラン鉱床があります。放射性元素を含んでいた花こう岩は白亜紀末期に形成された土岐花こう岩と呼ばれる岩体で,濃集して鉱床を形成している堆積岩は瑞浪層群の土岐夾炭累層と呼ばれる中新世の地層です。土岐花こう岩の表面に刻まれた当時の河川流路に沿って,そこに堆積した土岐夾炭累層にウラン濃集部をレンズ状に形成しています。

東濃鉱山内の坑道内部のようす
 東濃鉱山は,ウラン鉱床の試掘をしましたが,鉱山として稼動したわけではなく,実際には資源を得る段階までには至りませんでした。現在は,坑道を利用した実験施設として,放射性物質や地下水に関する各種の研究がなされています。



≪温 泉≫
 熱水はすべてマグマ起源の水とは限りません。地表水が地下へ浸透してマグマの熱で暖められても同様な役割をしていることがあります。鉱床というわけではありませんが,じつはほとんどの温泉がこの例にあたりますので,関連するテーマとして取り上げておきます。

最近掘られた“温泉”の写真を掲げるといいのでしょうが,差し支えがある場合もありますので,敢えて掲げないことにします。  温泉には,どうしても暖かいお湯というイメージがあります。しかし,温泉法という法律では,25℃以上の温度をもつか,規定の成分を一定量以上含んでいるかのどちらかの要件を満たせば温泉としてよいことになっています。一般に冷泉と呼ばれるものの中にも立派な温泉が数多く含まれています。最近,全国各地で新たな“温泉”が掘られていますが,そのほとんどは「地下水」であり,井戸水と変わりがありません。しかし,要件を備えていれば,正々堂々と温泉を名乗っても構わないわけです。じつは“ミネラルウォーター”の中にも温泉にあたるものが多いはずです。
 温泉には,地下深くから涌き出てきた“貴重な液体”というイメージもあります。一部には,そうしたものが存在するようですが,圧倒的大部分の温泉は雨水にすぎません。それはたとえ25℃以上の温度をもっていても同じです。温泉が火山につきものである理由は,地下水の釜焚き役として火山(=マグマ)を従えていますから,容易に温められるだけのことであり,決して地下深くから“貴重な液体”が湧き出してきているわけではありません。
 花こう岩分布地域には,放射能泉が多く分布します。これは,花こう岩中に含まれるラドンやラジウムといった放射性元素が地下水中に溶け出して,それが地表に湧き出しているものです。この場合は,規定量以上の放射性元素を含んでいるから,“温泉”なのです。
 日本三名泉の1つとされる下呂温泉は,湧出温度84℃の単純泉とされています。“単純泉”は,成分の種類が単純なのではなく,溶け込んでいる成分の濃度が薄いことを意味しています。下呂温泉の場合には,おそらく雨水が地下に滞在している時間が短いために,あまり濃度が高くならないのでしょう。温度については長い間謎とされてきましたが,最近になってすぐ東方にそびえる湯ヶ峰火山が10万年ほど前に形成されたことがわかり,それが熱源となっている可能性の高いことがわかりました。


下呂温泉の全景