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化石[5] 恐竜足跡化石
~足跡は消される運命~

 
 
 
  
【豆知識】

過去の生物の骨や歯といった遺骸だけでなく,巣穴の跡,糞,足跡など,生物が生活していた遺跡・痕跡も化石という.ただし,骨や歯にくらべると残りにくい条件や壊されやすい条件にあるため,古い時代のものほど化石として残りにくく,見つけにくい傾向がある.
岐阜県内で初めて発見された恐竜化石は足跡化石であった.1989年 (平成元年) に白川村の大白川上流に分布する手取層群の中から発見され,草食恐竜イグアノドン型の恐竜の足跡とされている.足跡化石は,白亜紀前期 (約1億4000万年前) に堆積した細粒砂岩層の表面に30個余り残されており,その表面には漣痕と呼ばれる波形の跡が広い範囲についていた.これは静かな内湾や湖岸で水流や波がつくったもので,恐竜が岸辺を歩いていたことを物語っている.足跡化石はその形が残らないと意味がないものであり,そのためには踏まれた場所 (乾燥地か湿潤地か) ,踏まれた物 (泥質部か砂質部か,砂質部でも細粒か粗粒か) ,踏まれた直後の状況 (すぐに水に流される,波に消される,堆積物に覆われるなど) ,さらにはその後の変形作用の有無など,かなりの条件が揃っていないと残らない.そして最大の条件は足跡化石が印された地層面が露出しなければならないことであり,露出してしまうとすぐに削られてしまうので,露出してからあまり時間が経過していないことも重要な条件となる.したがって,白川村で発見された足跡化石は,発見された時期に恵まれたことはいうまでもないが,いったん露出してしまったことで,現地で保存工事は施されているが,すでにかなり崩れてしまっている可能性もある.恐竜がせっかく残してくれた足跡も,地中にある間はよかったが,いったん地表に顔を出してしまうと雨と空気による過酷な世界にさらされることになる.遺跡にあたるものは埋め戻しておくのが最良の保存方法であるとされている.

【関連項目】 化石[6] シジミ貝化石
火山[12] 濃飛流紋岩の火砕流

【キーワード】 足跡化石,イグアノドン,大白川上流,恐竜,手取層群,保存方法,漣痕

【関連文献】
岐阜県恐竜化石学術調査団 (1992) 岐阜県白川村大白川上流域の手取層群 (予報) .岐阜県博物館研究報告,13号,1–8.
鹿野勘次・國光正宏・杉山政広 (2001) 岐阜県白川村の下部白亜系手取層群から産出した恐竜の足跡化石群.地球科学,55巻,329–338.

【余談】
足跡を“あしあと”と読む場合と“そくせき”と読む場合がある.化石では足の跡そのものであり,意味は前者であるが,読み方は後者を使う.人間の世界では前者の意味が転じて業績を意味する場合に後者が使われるが,化石の世界でも当時の動物が残した立派な業績であるから意味も読み方も後者でよいのかもしれない.人間の世界で前者に限定して使われるのは犯罪の場合であろうか.犯人が残した「あしあと」であり,決して「そくせき」ではない.

『学習テーマ』
中学1年「大地の変化 (地層と大地の歴史) ―化石 (中生代)


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