大陸地殻をつくる岩石のほとんどは花こう岩とほぼ同じ組成をもち,それが溶ければ,大陸地域のどこでも花こう岩を作り出すマグマが形成されることになります。事実として,花こう岩は海洋地域には分布せず,大陸地域に限って分布している岩石です。しかし,溶かすためには熱源が必要になりますから,いつでもどこでもマグマが形成されるわけではありません。日本列島においても,その地質構造発達史と深くかかわる火成活動の産物として分布していますが,ここではその内容には触れないことにします。

≪花こう岩の分布≫

 日本列島に分布する花こう岩類は,その形成時期で大別すると,古い方から,「三畳紀・ジュラ紀」,「白亜紀・古第三紀」,「新第三紀」の3つに分けられます。これら以外の時期に形成された花こう岩も存在しますが,それらの分布はきわめて限られています。「白亜紀・古第三紀」の岩体は最も広く分布し,中央構造線よりも北側の西南日本内帯と呼ばれる地域と東北日本におもに分布しています。
 なお,左図のような分布図では,花こう岩類よりも若い時代の地層に,たとえ薄くとも,広く覆われた地域では,花こう岩類が分布していないように表現されてしまうことに注意しなければなりません。
 中部地方では,3つの時期のうち,「三畳紀・ジュラ紀」と「白亜紀・古第三紀」の岩体がおもに分布します。前者は,岐阜県北部から富山県南部へかけての飛騨帯と呼ばれる地域に分布する船津花こう岩と呼ばれる岩体です。後者は, おもに岐阜県南東部・長野県南部・愛知県東部から三重県中部へかけての領家帯およびその北側にあたる美濃帯と呼ばれる地域,あるいは北アルプス地域などに分布し,数多くの岩体からなります。
 とりわけ,「白亜紀・古第三紀」の岩体は,かなり広範囲に分布していることもありますが,地表に露出してからのいろいろな作用も加わり,私たちの生活に深くかかわる現象をもたらしています。



≪花こう岩体の形≫

 マグマが上昇し,均衡の取れた場所で定置してマグマ溜りを作り,そこで固化することで花こう岩体が形成されます。その場合,定置するまでの過程や定置場所での地質環境,さらには粘性のある液体の挙動などさまざまな条件が重なって,いろいろな形態の岩体をもたらすことになります。
 代表的な上昇・定置・貫入プロセスには次のようなものがあります。

1.ダイアピル(熱気球): 低密度の液体が周囲の高密度固体を押しのけ,変形させながら上昇

2.バルーニング(風船): その場で周囲の岩石を押しのけて膨らむ

3.ストーピング(天井剥離): マグマ溜りの天井部をはがして,落としながら上昇

4.割れ目充填: すでに形成されている割れ目に沿って上昇(左図参照)

5.部分帯溶融(天井溶融): マグマ溜りの天井部を溶かしながら上昇



≪地表で見ている花こう岩体≫
 一般に,花こう岩はかなり広範囲にわたりどこでも似たような岩相を示しますが,岩体の中心部と縁辺部,上部と下部など,岩体の位置により形成条件が異なりますから,同一の岩体であっても,どの位置を見ているかによって岩相が大きく異なることもあります。

 岩体全体としてほぼ同じような岩相の変化をもつ花こう岩体が,その天井部,中央部,底部をそれぞれ見せて並んで分布したとしたら,性質や特徴の異なる岩体が分布していると理解してしまうかもしれません。実際にどのような位置の断面をみているかを理解することはそれほど簡単なことではありません。それは,花こう岩体が三次元的に詳しく理解されているわけではなく,岩体ごとに異なる岩相変化をもつことにもよっています。



≪岩体の天井部が見られる例≫
 マグマ中に溶け込んでいる揮発性成分(おもにH2O)は,温度・圧力の低下とともに飽和して液体中の気泡として分離していきます。それらはマグマ溜り最上部に集まり,大きな体積を占めるようになって周囲の岩盤へ内部から圧力をかけることになります。ガスは周囲の岩盤へ抜けていくはずですが,抜けずに溜まっていくことで爆発し,火山噴火の原動力になるような場合もあります。


苗木花こう岩中にある晶洞内のペグマタイト(中津川市蛭川)
 周囲の岩盤の状況により,揮発性成分が十分に抜け出せずにマグマ内に残ったままだと,岩体の天井部付近に岩石中の空洞として残ります。空洞は結晶が成長する上では自由な空間ですから,その中には周囲に比べて大きな石英(水晶)や正長石の巨晶ができ易くなります。こうしたものを晶洞といい,そこに形成された巨晶の集合体をペグマタイトといいます。

苗木花こう岩中のペグマタイトから産出した煙水晶(中津川市立鉱物博物館所蔵)
 マグマ中にあった各元素は,固結していく過程で鉱物の中に固定されていきますが,イオン半径が大きい元素のような鉱物中に入りにくい元素は,いつまでもマグマの液体中に残されていきます。それらが固結の最終段階まで空洞内に残り,そこに特殊な成分を含む結晶(希産鉱物)を晶出していくことになります。
 岐阜県の東濃地方に分布する苗木花こう岩では,ペグマタイトが多数見られ,その中に希産鉱物も多数含まれており,鉱物マニアに親しまれた場所になっています。じつは,これらのことはマグマ溜りの天井部を示唆する材料であり,実際に岩体を覆っていた母岩の火山岩類や堆積岩類を貫いている個所も確認できます。