全球凍結事件と動物起源論

最古のエディアカラ生物群化石の発見

遠く過ぎ去った地球の歴史を解読するには,地球表層環境や生物進化を記録した地層を丹念に研究していく必要がある。さまざまな時代にさまざまな事件が起こっている中で,特定の事件を解明するには,もっとも適した地域に出かけていって調査を行う必要がある。
約6億年前に訪れた氷河時代には,地球表面が全面的に凍結するほど気候が寒冷化したらしい。その後しばらくして大型の多細胞動物であると解釈されているエディアカラ生物群の化石が産出するようになる。それらの時間関係を明らかにするには,エディアカラ生物群の化石や氷河堆積物が挟まれている一連の地層で,しかもU‐Pb年代測定法などで,地層ができた年代が精度よく見積もられている地域で研究を進める必要がある。そうした目的に見合う地層が露出する地域として,カナダ,ニューファンドランドのアヴァロン半島南部が注目されきた。

アヴァロン半島の柱状図
(ナーボーンとゲーリングの2003年の研究にもとづく)
この半島には,約6億年前の氷河堆積物・ガスキアーズ累層[英語]がある。その約3000 m上位にあるミステイクン・ポイント累層[英語]からは,多様かつ豊富なエディアカラ生物群化石が発見されている。その形成年代は5億6500万年前で,最古のエディアカラ生物群の産出露頭だとされてきた。
カナダ,クイーンズ大学のG. M.ナルボーン[英語]と南オーストラリア博物館のJ. G.ゲーリング[英語]は,ガスキアーズ氷河堆積物とミステークン・ポイント累層の間にあるブリスカル累層[英語],ドルック累層[英語]にエディアカラ生物群化石が含まれているか,詳しい調査を行なった。その結果が,米国地質学会の機関誌Geologyの2003年1月号に掲載された。
彼らは,カルニア(Charnia)という,大きさが2 mにも達する巨大な葉状化石が,ドゥルック累層やその上のブリスカル累層に含まれていることを発見した。さらにそれだけでなく,これらの化石が下流側に倒れるようにそろって地層にはさまれていること,つまり,当時は地面から生えるように生息していたことを読みとった。
発見された化石は,5億6500万年前よりかなり前からエディアカラ生物群化石が出現したことを物語っている。このことは,全球凍結事件とエディアカラ生物群化石の産出時期の対応をいっそう確かにするものである。

© 2005 Gifu University, Shin‐Ichi Kawakami, Bunji Tojo, Nao Egawa.