エディアカラ生物多様化と地球環境変動

中国南部の地層のU-Pb年代測定

先カンブリア時代の末期に地球の気候は寒冷化に向かい、何度か地球表面が全面的に凍結するような氷河時代があった。こうした氷河時代が終わると突然大型の生物化石が産出するようになる。最近になって先カンブリア時代後期の地層のU-Pb年代測定データが提示されるようになり、従来からの炭素同位体比による地層の対比を合わせた検討が進んでおり、生物進化における大きな飛躍である多細胞動物の出現と地球環境変動の関連性に関する理解が深まるのではないかと期待されている。
最近、マサチューセッツ工科大学のD. Condonと南京地質古生物研究所の研究グループが中国南部の揚子江峡谷に露出する先カンブリア時代後期の地層を調査し、3つの層準で火山灰層を発見した。火山灰層から採集されたジルコンという鉱物粒子を用いて、U-Pb年代測定を行うことで、地層に絶対年代を与えることができ、ひいては生物進化の起こった時期や地球環境変動の発生時期の対応関係を明らかにできるというわけだ。

図1. エディアカラ紀における生物の多様化。
(コンドンらの2005年の研究にもとづく)
まず、コンドンらは、ナンツオ氷河堆積物からドウシャンツオ(Doushantuo)累層の境界部付近の2層準の火山灰層の年代を求めた。それらは、6億3500万年前と6億3200万年前という値であり、ナンツオ氷河堆積物がマリノアン氷河堆積物に対比され、この時代の氷河堆積物がほぼ同じ時代のものであるという見解が裏づけられた。
エディアカラ生物群化石の産出で特徴づけられるエディアカラ紀の始まりは、この氷河堆積物を覆う炭酸塩岩の堆積で定義されており、エディアカラ紀が6億3500万年前から5億4500万年前であったことになる(図1)。
問題は、この長いエディアカラ紀における生物多様性の変遷と地球環境変動の対応関係をどう見るかにある。まず全球凍結のあったマリノアン氷河時代が終わって5000万年近い時間の流れがあり、ガスキアース氷河時代の直後にチャルニアやランゲアのような化石産出が始まっている。だが、ガスキアース氷河時代は炭素同位体比の変動から推察されたもので、氷河堆積物の存在はほとんど知られていないものである。
コンドンらは、5億5100万年前の炭素同位体比の変動があったとし、これとキンベレラの出現と対応させているが、この解釈は議論の的になっている。この5億5100万年という年代値は、ドウシャンツオ累層を覆うデンギン(Dengying)累層の下部にはさまれている火山灰層のものである。ドウシャンツオ累層とデンギン累層の境界部は不整合になっているが、ドウシャンツオ累層最上部とデンギン累層最下部はいずれも炭素同位体比が負の値へとシフトしており、コンドンらは地層が堆積しなかった期間が短いと考え、炭素同位体比の変動が5億5100万年前のものであると解釈したのである。しかしながら、問題の不整合には相当の時間の経過があったとする対比も可能だという批判も出されている。
先カンブリア時代の地層のU-Pb法による年代測定によって、この時代の地層の層序に関する理解は急速に深まっている。化石の産出に関して興味深い点は、ハートゲンらが示唆した5億8000万年前に硫黄同位体比の分別の幅が大きくなり、大気や海水中の酸素濃度が増大したことが、時期的に対応していることである。

© 2005 Gifu University, Shin‐Ichi Kawakami, Bunji Tojo.