多細胞動物の起源はいつか ?
ダーウインの時代から150年近くが経過した今,先カンブリア時代の生物化石には新たな発見が相次いでいる。
カンブリア紀の直前の5億6000万–5億4300万年前の地層からは,エディアカラ生物群と呼ばれる大型の化石が世界各地で発見されている。多くは平らで,中には全長1 mに達するものもある。エディアカラ生物には, “クラゲやイソギンチャクの仲間,あるいは節足動物の仲間が含まれる” という説と, “現在,地球上に生息するどの動物門にも属さない絶滅動物種である” という説,あるいは “コケのような生物である” とする説などがある。
こうした多細胞動物の化石研究に,1990年代の終わりから新たな展開が続いている。1998年には,中国南部の5億7000万年前の地層から,明らかな海綿動物 (カイメン) の化石や,卵割期の動物の胚化石が発見され,多細胞動物は少なくとも先カンブリア時代末期まで遡るのは確実となった (Xiao et al., 1998)。
一方,分子生物学の進歩によって,動物の遺伝子を調べて多細胞動物の出現時期が推定できるようになった。動物に固有の遺伝子の塩基配列を調べ,突然変異の発生率を測定し,それで変異が蓄積している遺伝子配列の変化量を割ると経過した時間が測定できる。そうした研究によると,多細胞動物を作る遺伝子は6億年前から11億年前にはできあがっていた (Wray et al., 1996)。
1998年,インド中央部の11億年前の地層で,動物の這い痕化石が発見され,新たな論争を引き起こした。この化石を記載したザイラッヒャー [解説]らによると,砂岩の表面に残された幅5 mm程度の不規則な溝はミミズのような動物の這い痕で (Seilacher, 1998)。しかも,この砂岩は有機物に富んだ薄い地層で覆われていることから,この動物は微生物皮膜 ( バイオマット) の底部を這い回っていた。この砂岩の形成年代は11億年前で,これは動物化石の最古の記録を5億年も更新し,分子生物学的推定の最古の年代値とも一致する。
だが,こうした発見とその解釈にはいつも異論が提起される。彼らの論文では,動物の這った痕とされる岩石の表面模様が本当に生物起源なのか,砂岩の年代値は信用できるかの2つ論争が起こった。
これが実際に動物の生痕化石だとすれば,周辺からもっと化石が見つかるだろう。問題の地層を詳しく調べたインドの地質学者によって,スモール・シェリー・フォシルズ [英語]と呼ばれるカンブリア紀の動物の表面に付着していた硬骨格の破片が発見された。また,周辺の地層からはエディアカラ生物群に属する化石も発見された。
しかし,これらが本当に化石なのか,地層の対比は正しいのかという問題は解決されず,また,アルゴン‐アルゴン年代測定法によって,問題の砂岩層は6億2000万年前のものだという地球化学者も現れたため,ひどく議論が混乱してしまった。
- バイオマット
- 岩石や地面を覆う微生物の膜でぬるぬるした肌ざわりがある。現在の地球では,温泉水の流れる河床などによく見られる。
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