2億5000万年前の生物大量絶滅は、過去5億年間における最大規模のもので、地球生物の進化に大きな影響を与えた。いま大きな論争になっている問題は、この生物大量絶滅がなぜ起こったのかということであり、天体衝突説、大規模火山活動説、海洋酸素欠乏説などが提案され、論争が続いている[1]。
西オーストラリアのカーティン工科大学のグリースら有機地球化学者たちは、生物大量絶滅の起こった時期に堆積した黒色泥岩試料をオーストラリアのパース海盆と中国南部で掘削し、含まれる有機分子に光合成細菌に固有のものが多く含まれることを明らかにした。光合成細菌は、酸素のない環境で太陽の光と硫化水素を使って光合成を行う微生物であり、海洋表層の有光層(photic zone)まで酸素が乏しい状態になったことが示された。
堆積物には生物の遺骸に由来する有機分子が含まれているが、長期にわたって地中に埋没している間に分子が壊れたり、水素が失われたりして変化している。有機地球化学者は、現在地球に生息している多様な生物種がどのような有機分子でできているかを調べ、特定の生物にだけ使われている分子を探索する。たとえば、クロロフィルやポーフィリンといった分子は光合成色素を構成する分子であり、それらは光合成物が作った分子であると認定される。今回ペルム紀末から三畳紀初期の地層から見つかった分子は、バクテリオクロロフィルc, d, eといった分子に由来するもので、それらがクロロビウム科の緑色光合成細菌に由来するものである。
さらに彼らは、鎖状有機分子(C14-C18 n-alkyl carbon chains)の炭素同位体比を測定した。この分子は光合成生物によっても作られるが、従属栄養生物にも含まれており、炭素同位体比を測定することでどの生物から由来したのかを区別することができる。得られた結果は光合成生物起源であることを物語っており、従来から酸素欠乏状態を示唆するとされた有機物は光合成生物の一次生産が増大したことを示唆している。
こうした結果を見ると、ペルム紀末の大気・海洋に大量の硫化水素が供給され、その結果として海洋が酸素欠乏状態になり、ひいては生物大量絶滅を招いたというシナリオが立てられそうである。
実際、ペルム紀-三畳紀境界の黒色泥岩に大量の硫黄が含まれることはよく知られている。硫黄が天体衝突に起因するという考えもあるが、大規模な火山活動によって、地球内部から供給された可能性の方が高いと思われる。 |