ペルム紀-三畳紀境界で起こった生物大量絶滅の原因論はいま論争のまっただ中にある。本ニュースコーナーの2004年11月2日の記事では、西オーストラリアの衝突構造を巡る新たな論争が始まったことを紹介した。2004年12月号に発表された新しい論文では、ヨーロッパのペルム紀-三畳紀境界層の地球化学的研究から衝突説を支持する証拠が見つからなかったことが報告された。
オーストリアのヴィエナ大学のC. Koeberlらは、ペルム紀-三畳紀境界として古くから注目されているオーストリアとイタリアの地層に衝突の証拠が存在するか、さまざまな地球化学的な分析を行った。もし、この生物大量絶滅が地球外から巨大な小惑星が衝突したことが原因であるとすれば、地球外物質や天体衝突の証拠があるはずである。
これまでの研究で、オーストリアのペルム紀-三畳紀境界層で、炭酸塩岩の炭素の同位体比が負の値へシフトしている部分でイリジウムの濃度が高いことが知られていた。Koeberlらは、イリジウムだけでなく、白金、オスミウムなどの白金属元素の存在度、オスミウムの同位体比、さらにヘリウムの同位体比を測定して、隕石などの地球外物質に固有の測定値が得られるかを検討した。
彼らは、これまでの研究で報告しているイリジウムの濃度が高まっている層準(地層の重なりにおける位置)を確認したが、この層準で測定されたオスミウム同位体比やヘリウム同位体比には地球外の証拠は見つからなかった。イリジウムの濃度がたかまったことは、海水が酸素欠乏状態になったものであると解釈された。だとすると、少なくともこれらの地域では、天体衝突を示唆する証拠は何もないことになる。
Koeberlらは、これまでに天体衝突を支持すると主張された証拠についても、衝突を裏づけるには不十分なものであると考えており、再検討を行っていく必要があると述べている。
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