濃尾地震

直下型巨大地震甚大な被害大地に現れたもの
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直下型巨大地震

震源分布図
日本列島周辺で起こる巨大地震の震源分布
[宇津(1984)にもとづく]

小学6年生では,地震が発生する原因や断層が形成される原因・過程については触れないことになっています.しかし,教師がまったく知らなくてよいわけではありません.下記の内容ぐらいは概略として知っておく必要があります.
日本列島周辺で起こる巨大な地震は,大きく海溝型と直下型に分けられます.発生する原因や場所がそれぞれに異なりますから,引き起こされる現象も異なってきます.
海溝型地震は,海洋プレートの沈み込みにより,プレートの境界付近に蓄積される歪みが解放される際に発生すると考えられています.おもに日本列島の太平洋岸に沿う地帯で起こり,「明日起こっても不思議ではない」とまで言われる『東海地震』,1944(昭和19)年の『東南海地震』などがこれにあたります.ただし,災害としては重要な地震ですが,おもに海域で起こりますから,「土地の変化」には大きな影響を及ぼさない地震と考えてよいでしょう.
直下型地震は,日本列島の直下で蓄積された圧縮力が解放される際に発生すると考えられています.おもに陸上に分布する活断層がずれることで起こることが多く,「土地の変化」に大きく関与する地震です.濃尾地震は日本における最大級の直下型地震であり,その規模がかなり大きかったことにより,「土地の変化」がかなり顕著に現れました.
[文献]
宇津徳治(1984) 地震学 (第2版) . 共立全書,310P.

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甚大な被害

震度分布図
アンケート調査結果をまとめた濃尾地震の震度分布
[村松(1976)による]
数字: 震度

濃尾地震住宅被害率
濃尾地震の激震域における住宅被害率
[村松(1983)による]
被害率 = (全壊住家数 + 0.5×半壊住家数) ÷ 全住家数

濃尾地震は,現在の岐阜県本巣郡根尾村付近を震源として1891 (明治24) 年に発生しました.地震の規模を示すマグニチュード [注1] は最大級の8.0でした.この地震によるゆれは東北地方南部から九州地方にまでおよび,左図のように,とりわけ震源地に近い岐阜県や愛知県を中心に震度6~7という激しいゆれが記録されました.
濃尾地震による死者は7,273名にも達しました.倒壊した家屋は,左図のように『根尾谷断層』に沿う帯状の地帯と濃尾平野一帯で高い割合を示しました.濃尾平野では,震源地や断層線沿いから遠く離れていたにもかかわらず,軟らかい地盤にともなうゆれ方と関係して被害が大きくなり [注2] ,建物ばかりでなく交通機関や河川の堤防などにも甚大な被害が及びました.
1995年の『兵庫県南部地震』では,神戸市という大都市を中心に,濃尾地震による死者の数と似た6,432名という犠牲者がでました.濃尾地震当時の人口密度,都市の規模などを考えると,濃尾地震は兵庫県南部地震とはくらべものにならないほど甚大な被害をもたらした地震であったことになります.
[注1]   地震波の最大振幅,周期,震源の深さなどから公式に基づいて求める値で,値が1.0異なると約30倍の違いがあります.ゆれ方の強弱を示す震度とは明確に異なる数値であることに注意する必要があります.
[注2]   固い岩盤中では短い周期の (ガタガタとゆれる) 地震波が,軟らかい地盤中では長い周期の (ユラユラとゆれる) 地震波がそれぞれ卓越して伝わる性質があります.後者が共振すると建物などの破壊につながるゆれ方をするため,被害が大きくなります.

濃尾地震と兵庫県南部地震の被害比較表
地震名濃尾地震兵庫県南部地震
発生年月日1891年10月28日1995年1月17日
発生時刻午前6時38分午前5時46分
震央岐阜県本巣郡根尾村兵庫県淡路島
マグニチュード8.07.2
被害数の出典おもに理科年表による消防庁 (2000年12月)
死者7, 273 名6, 432 名
行方不明者3 名
負傷者17,175 名43,792 名
全壊家屋142,177 棟104,906 棟
半壊家屋80,324 棟144,274 棟
[文献]
村松郁栄(1976) 濃尾地震の震度分布について—当時のアンケート調査から—. 岐阜大学教育学部研究報告(自然科学),5,424–440.
村松郁栄(1983) 濃尾地震による濃尾平野の住家被害率分布. 岐阜大学教育学部研究報告(自然科学),7,867–882.
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大地に現れたもの

根尾谷断層系概略図
『根尾谷断層』の概略分布図
[松田(1974)を簡略化]

甚大な被害もさることながら,濃尾地震で人びとを驚かせたことは,ゆれたと同時に大地に大きなずれ (断層) が生じたことでした.左の図のように,福井県池田町から岐阜県関市に至る長大な帯状の大地に,1回の地震でかなり明瞭な断層が現れました.それが『根尾谷断層』 [注] です.
濃尾地震と『根尾谷断層』は,地震が大地の運動に関係した現象であることを示してくれたことになりますから,ここに「土地の変化」としてとりあげる重要な意味があります.
[文献]
松田時彦(1974) 1891年濃尾地震の地震断層. 地震研究所研究速報,13,85–126.
[注]   “根尾谷断層”という言葉は,実際にはいろいろな意味に用いられており,ここでは正確な意味で用いていない場合に『根尾谷断層』と表現しておきます.詳しくは該当項目 [『根尾谷断層』のすがた] で説明します.