【豆知識】
断層面が斜めに傾いている場合,
断層面よりも上側にある岩盤を“上盤”,下側にある岩盤を“下盤”とそれぞれ呼ぶ.
垂直ずれ断層において上盤が下盤に対して相対的にずり下がる場合を
正断層,ずり上がる場合を
逆断層とそれぞれ呼ぶ.前者では引っ張る力が,後者では押される力がそれぞれ働くと形成される
断層である.正断層の場合は断層面の傾斜があまり低角度になることはないが,逆断層の場合には低角度になることが多く,そうしたものを
衝上断層と呼んでいる.衝上断層は極端になると断層面が水平近くになってしまうもの,さらには逆傾斜にまで達してしまうものまである.それだけ激しい圧縮力が働いたことを意味しており,ずれ方も大規模になる.ヨーロッパ・アルプスなどの造山帯では,古い時代の岩石がはるか遠い地点から衝上断層面上を波乗りのように移動してきて新しい時代の岩石の上に載るようなこともある.
岐阜県の最北端にあたる神岡町横山の神通川河床には,下盤が
手取層群からなり,上盤が
飛騨片麻岩類からなる
横山楡原衝上断層があり,国の天然記念物に指定されている.この衝上断層は,この河床だけではなく周辺地域において北西―南東方向に延びており,広い範囲で飛騨片麻岩類が手取層群の上にのり上げている.神通川河床では飛騨片麻岩類が35°ほどの傾斜角度で南西側 (左側) からのり上げているが,ここの展望台からは全体が同じような色調の岩石としてしか見えず,断層の位置は確認しづらい.飛騨片麻岩類の形成時期は少なくとも古生代ないしそれ以前であり,手取層群の形成時期は中生代のジュラ紀後期~白亜紀前期であるから,この衝上断層は白亜紀前期以降に大規模に圧縮力が働いて手取層群に覆われていた飛騨片麻岩類が手取層群の上にのり上げたことになる.しかし,白亜紀後期以降にこの地域でこうした激しい変動があったとは考えにくいことから,手取層群の堆積後,白亜紀中頃までに起こったと考えられている.