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岩石・鉱物[6] 船津花崗岩
~母屋をとる~

  
【豆知識】

岐阜県北部から富山県南部へかけての地域は飛騨帯と呼ばれ,日本列島のなかでも最も古い時代に形成された飛騨片麻岩類が分布する地域である.複雑な変成作用や深成作用を経て形成された飛騨片麻岩類は,約1億8000万年前のジュラ紀前期に最後の変形・変成作用を受けた.その主役は船津花崗岩と呼ばれる花崗岩体であり,飛騨帯とその外側の飛騨外縁帯にかけての広い範囲にわたって貫入した.比較的広い範囲 (おおよそ100km²以上) に分布する花崗岩体をバソリスというが,船津花崗岩は日本列島で最古のバソリスである.
広範囲に分布する船津花崗岩は地域ごとに少しずつ岩石の性質を異にし,おもに岩石組成の違いから下之本型と船津型の2種類に大別されている.この花崗岩は少し風変わりな花崗岩体であり,それは2点で特徴づけられる.1つは,周囲の岩石に対してかなり“冷たい”貫入をしたらしく,広範囲に接触変成作用を及ぼして飛騨片麻岩類などの放射年代値をみな若返らせていながら,岩石組織にはその影響をほとんど与えていない.それは固体状態で貫入したことにより高い圧力で砕かれてできるミロナイト (圧砕岩) と呼ばれる岩石を貫入境界付近にかなり形成していることからも示される.もう1つは,これだけ巨大な岩体でありながら,どこでもほぼ同じ年齢をもつこと,すなわちいっせいに貫入したことである.普通のバソリスでは形成年代が1000万年オーダーの幅をもっていることからすると異常ともいえることである.ジュラ紀前期にいっせいに貫入固結し,ジュラ紀後期の手取層群には礫として多量に含まれるので,貫入固結後に急速に地表に露出し,削剥されたことになる.これもかなりのスピードといってよい.船津花崗岩は約20億年前からはじまる飛騨帯の形成過程からすれば主役にはなれない岩石であるが,飛騨片麻岩類よりも分布面積がかなり広い.逆に,飛騨片麻岩類という母屋は,船津花崗岩という後から侵入してきたものにその座を明渡し,かろうじて侵入されずに残ったものだけになっている.

【関連項目】 岩石・鉱物[5] 飛騨片麻岩類

【キーワード】 下之本型,バソリス,飛騨外縁帯,飛騨帯,飛騨片麻岩類,船津花崗岩,船津型,ミロナイト

【関連文献】
野沢 保 (1988) 船津花崗岩類.「飛騨の大地をさぐる」,134–139,教育出版文化協会.

【余談】
みかけ上,広い面積を占めるもの,一番高い場所にあるものが主人公であると思いこむことは仕方のないことかもしれないが,それによって物事の本質を見失うことはやはりまずいことである.目の前に迫ったことに惑わされて,ごまかされて,とんでもない結末をむかえることがよくある.意識的にそのようにさせている立場からすれば思うツボということになる.自然の姿も人間の社会もその本質を見抜くことが大切であり,われわれはそのために勉強しているのである.

『学習テーマ』
日本列島の形成


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