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火山[9] 火山灰の正体
~ビールはマグマの代用品~

 
  
【豆知識】

われわれが見る機会の多い火山噴火は,ドロドロに溶けた溶岩の流出と火山灰を空高く噴き上げる噴煙であろう.前者は,地下にあるマグマがそのまま地表へ運ばれたと考えることでおおよそ納得のいく現象である.それでは噴煙はどうであろうか.液体のマグマがどこかで火山灰の粉に化けることになり,よくよく考えてみると奇異な現象である.
マグマにはH2OやCO2などの揮発性成分が溶けこんでいる.周囲の圧力が高いうちはマグマ中に溶けこんだままであるが,マグマが上昇して周囲の圧力が下がると気体として分離を始める.これはビールの栓をぬくと途端に泡がでてくるのとまったく同じ現象であり,発泡作用という.ビールの泡は必ず上方へ向かって移動する.マグマ中の気泡も必ずマグマ溜りの上部に集まる.大量に集まった気泡は,液体が占めていた時にくらべれば圧倒的に大きな体積を占めるようになるから,外へ向かう圧力を貯えることになり,天然の栓抜き役を演じる.すなわち火山噴火である.栓が抜かれれば,マグマ内部の圧力は急減し,ますます泡の量は増えていく.気泡が増えると,ちょうどビールを注いだコップの上部に集まった泡のように,泡と泡が薄い液体の膜で境されて接するようになる.泡は表面張力で必ず球体となり,球体どうしが接すると接点がもっとも弱い場所になる.そのまま急冷すると液体部分はガラスとなり,接点で切れると泡の曲面で囲まれた形をしたガラス片ができる.これが火山灰の正体である.大量生産されたガラス片が上空へ噴き上げたものこそが噴煙である.火山の噴火では,マグマ中に揮発性成分を多く含んだ勢いのある初期に噴煙が,揮発性成分がなくなった後期に溶岩がでてくる傾向があるのもうなずけることである.ただし,噴煙のすべてがこのようにしてできるわけではない.水蒸気爆発で既存の火山体を粉々に砕いて噴き上げても噴煙になる.御嶽山1979年の噴火がそれにあたる.

【関連項目】 火山[8] 飛騨テフラ
火山[10] 火砕流
火山[11] 溶結凝灰岩

【キーワード】 火山灰,ガラス片,揮発性成分,発泡作用,噴煙,マグマ

【関連文献】
小野晃司 (1970) 顕微鏡下の岩石 8?溶結凝灰岩 (その1) .地質ニュース,191号,40–44.

【余談】
火山噴火はなじみのある自然現象でありながら,なかなかその中味まで理解されにくい.短時間のうちに激しい変化をともなって起こるからであろうが,中味はどうしようもなく複雑怪奇というわけではない.ビールを飲むたびにマグマのことを思いだしていただければ,意外に単純と思えてくるかもしれない.でもビールがまずくなるかもしれないが.

『学習テーマ』
小学6年「土地のつくりと変化 (火山) ―火山噴出物 (火山灰)
中学1年「大地の変化 (火山と火成岩) ―火山噴出物 (火山灰)


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