【豆知識】
1991年の雲仙普賢岳における火砕流噴火はテレビにも映し出され,そのすさまじい自然の力に圧倒された.
火砕流は,溶岩の破片であれ,火山灰 (ガラス片) であれ,マグマ物質の破片と火山ガスの混合物が地表に沿って流れる現象である.雲仙普賢岳の場合は
溶岩ドームが崩壊することで発生し,火砕流としてはきわめて小規模なものであった.これとはかなり異なり,地下の
マグマから
噴煙として噴き上げた火山灰から発生する火砕流があり,こうした火砕流の方が大規模である.噴火活動で勢いよく噴き上げる噴煙は,上空へ向かって火山灰の柱が立っているように見えることから
噴煙柱と呼ばれる.その噴煙柱も上空へ噴き上げるエネルギーが弱くなると,その形を維持できなくなって崩れていく.崩れた噴煙柱は火山灰の集団を地面に向かって落下させ,そのまま地表面にそって流れる火砕流を形成する.
火山の噴火様式には溶岩流,噴煙,火砕流の大きく3つがある.前二者は多くの機会にみられるが,後者は前二者にくらべて発生頻度が少ないために,火山国日本ですら雲仙普賢岳の噴火でやっと市民権を得たほどの噴火現象である.実際に火砕流現象が初めて記録されたのは西インド諸島のプレー火山における1902年噴火であり,まだ100年しか経っていない.火砕流は高温のガスの中に固体の破片や粉が浮かんだ流動化状態で流れ下るので,地面との摩擦が極端に少ないため高速で移動する.これはある程度の高さをもつ尾根でも簡単に乗り越えてしまうため,雲仙普賢岳の惨事を思い浮かべれば分かるように,逃げる間もなく高温のガスに襲いかかられることになる.それに捕まればほぼ例外なく生命は失われると考えてよい.溶岩流や噴煙とは比較にならないほど恐ろしい現象である.幸いにも岐阜県下では歴史時代に火砕流に襲われたことはない.
白山や
焼岳では1500~2500年前には小規模ながらも火砕流を流しており,将来に火砕流を流さないという保証はまったくない.