水鳥は,有名な断層崖が出現したことで濃尾地震断層系を象徴する場所となっていますが,地震断層がやや複雑に分布し,全体からみると特異な場所になっています.ここの断層崖は,『水鳥集落のある平地を一直線に北35 °西に横切り,その西方の地盤は低落し,下方より見るときはあたかも鉄道の築堤のような状態をなした.上下の変位は約6 mにおよび,切断面は水平面と40 °の角をなしていた
』 (大森) .断層崖の『南は遠く根尾川の河原に現れ,延長は約1 kmあり,七灘と称する場所の近辺まで達した
』 (大森) .
断層崖の傾斜角度
『40 °の角』が正断層(
→断層の種類)の傾斜角と考えられたこともありましたが,この断層崖がトレンチ掘削されて,断層面がほぼ垂直であることが確かめられましたので,この傾斜面は崖が形成された後の崩壊面を表わしていることになります.その後も断層崖は風雨にさらされ続けていますから,時間の経過とともに崩れていき,さらには人工的な改変も加わっています.
断層崖の水平ずれ
この断層崖では垂直ずれが際立っていることから,水平ずれについてはあまり注目されていませんが,当時の写真をみても明らかにそれはあり,『断層のため道路の左右に移動せること約2.5 mに及ぶ
』 (大森) とされています.
断層崖の北縁 (根尾谷15)
断層崖は,西光寺の西側にある寺山付近より北方には延びておらず,東西方向に走る大将軍断層をほぼ北限として終わっています.
「地震断層観察館」 (根尾谷16)
「地震断層観察館」は,水鳥断層崖の南東端で掘削されたトレンチをそのまま利用して,根尾村が濃尾地震100周年を記念して1991年に建設したものです.
トレンチの壁面では,暗灰色の基盤岩類 (美濃帯の中・古生層) と河川堆積物の礫層がほぼ垂直な断層面で接し,断層面が示す方向も,垂直ずれ5~6 mという値も地表でのそれらと一致しており,ここでは濃尾地震の時だけで生じた大地の変化を観察していることになります.巨大地震による断層運動の姿を直接に,しかも天候に左右されずに観察できる点で,貴重・稀少な場所となっています.
深層ボーリング (根尾谷17)
「地震断層観察館」の南にある段丘面上から深さ1300 mまで,断層面と交叉するように深層ボーリングが掘削され,種々の実験・測定が行われています.断層破砕帯の影響を受けて,圧縮力などの複雑な応力値が得られています.
水鳥地域東縁断層
水鳥地域の東縁,すなわち根尾川の西岸沿いでは,陥落が『根尾川の河底から耕地を経て板所に至るもので,水鳥の東北側にある
』 (比企,1891) とされていますが,明確な断層崖の記載がなく,あまり顕著なものではなかったようです.板所から南下してきた断層線の一部と思われ,この地点より南では断層線の位置は不明です.