プレート・テクトニクスの始まり

太陽系の惑星の中で,地球だけにプレート・テクトニクスがある。これがなぜかを解明することは,地球惑星科学の重要な課題である。
   水星   金星   地球   火星   月 
 赤道半径 (地球=1)  0.383   0.949   1   0.533   0.272 
 表面温度 (℃)  340 (昼) 
 −160 (夜)
 480   15   −20   125 (昼) 
 −160 (夜)
そのために,まず,地球と他の惑星を比較しよう。
  • 月や水星にプレート運動がないのは,リソスフェアが厚く硬いからだ。さらにその理由は,内部が冷え切って対流運動が起こっていないからと,表層付近の温度が比較的低いからだ。
  • 火星も同様の理由で,厚いリソスフェアを持つ。
  • 金星は地球とほぼ同じ大きさなので,内部には活発な対流運動があるだろう。しかし金星は,表面温度が高いので,硬いリソスフェアは存在せず,したがってプレート運動も存在しない。
地球は,これらの中間的な性質をもっていて,内部に活発な対流運動があるが,表面には冷たく変形を受けにくい層がある。この層がプレートである。
地球のプレートには海洋地殻で覆われた部分と,海洋地殻の上に大陸地殻が載った部分とがある。大陸地殻は花崗岩質で,海洋地殻に比べ軽い岩石でできている。これに対し,海洋地殻は玄武岩質で,冷たくなった沈み込み帯では密度が大きく重力的に不安定になり,マントルへの沈み込みが起こりやすくなる。したがって,一度プレートの沈み込みが始まると,沈み込んだプレートはスラブ状にマントルに入り込んでいく。こうして,沈み込み帯でマントル物質の下降が起こる。結果としてみると,地球は複数のプレートで覆われており,それらの相対運動によって地球表層の変動が起こる。
このようなプレート・テクトニクスは,地球表層の物質循環過程の機軸となる。すなわち,中央海嶺で海洋底が誕生してから,沈み込み帯でマントルへ沈み込むまでに,マントルと地殻,さらに大気や海洋との間で物質が交換される。その結果,長期的には,大気組成や海水の総量なども,プレート運動の影響を強く受けている。また,プレート・テクトニクスは大陸の成長や地球内部の物質分化を引き起こす主要な要因でもある。
では,プレート・テクトニクスはいつ始まったのであろうか。かつては,堆積岩の化学組成の時代的変遷などから,約10億年前とする説があった。しかし,この説には強い根拠はなかった。
斉一説[解説]をとる研究者は,地球が誕生して間もない45億年前から現在と同じプレート運動が存在したと主張した。ただし,地球の熱的変遷から,過去ほど放射性元素が崩壊して発生する内部熱源が豊富で地球内部が高温だったので,プレート運動の速度や海嶺軸の長さなどは時代とともに変化してきたとされていた。
近年になって,先カンブリア時代の地質学的研究や大陸地殻の構造調査が盛んになり,地質学的証拠にもとづいて,プレート・テクトニクスの始まりが議論できるようになってきた。特に,1990年代にカナダ楯状地で大規模な地震探査実験がなされ,地殻や上部マントルの構造が詳しく調べられた。
その結果,先カンブリア時代の造山帯に沿って,プレートの沈み込みによるスラブ状の構造が明らかになった。この発見により,当時すでに,現在と同じプレート運動があったことがわかった。
このカナダの造山帯は27億年前のものである。従って,少なくとも27億年前からプレート・テクトニクスは作用していた。
それ以前からプレート運動が作用していたという主張もあるが,根拠は乏しい。

© 2002 Gifu University, Shin‐Ichi Kawakami, Nao Egawa.