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景勝地[5] 川浦渓谷
~割れ目がつくる渓谷美~

 
  
【豆知識】

ほとんどの物質は液体から固体になると体積が減る.岩石も同じであり,マグマから冷えてできた溶岩では,体積減少を柱状節理や板状節理と呼ばれる割れ目を数~数十cmの間隔で作ることで補っている.花崗岩もマグマが地下で固結したものであるから体積減少があり,やはり割れ目を作る.この場合,溶岩のように平面的な節理ではなく,立方体をつくるような方状節理と呼ばれる割れ目を形成する.しかも溶岩の節理より幅広く,数~数十mといった大きな間隔で形成されることが多い.花崗岩は風化作用によりマサ化していくが,それは方状節理に沿って進行していく.マサ化がかなり進行すると,東濃地方のように広域的に崩されていくが,まだ硬固な岩石を維持している段階では,節理面に沿った部分だけが削られやすくなる.川の浸食作用も節理面に沿って方向性をもってすすみやすくなる.
川浦(かおれ)渓谷は長良川支流の板取川上流にあり,切り立った花崗岩の岸壁がつくる深くて狭い渓谷であり,両白 (美濃) 山地随一の渓谷美を誇るといわれている.この渓谷は約5kmほどの花崗岩分布区間だけに限られており,それより上・下流側の美濃帯堆積岩類分布域では谷は浅くなり,とても渓谷と呼べるほどの深い谷はみられない.この深い渓谷部分が延びる方向 (北西–南東方向) には断層が走り,基本的にはそれに沿って侵食を進めたことで渓谷が形成されたと考えられるが,花崗岩分布域に限って深い谷が刻まれていることは,断層だけではなく,花崗岩に特有の方状節理に沿って方向性をもった浸食作用が働いたことも大きく影響したと考えられる.ここに分布する花崗岩は,濃飛流紋岩の西隣の地域に,ほぼ同時期に,ほぼ同じような特徴を持つ火山岩類と花崗岩類の複合岩体 (奥美濃酸性岩類) に属する川浦谷花崗岩と呼ばれる花崗岩体である.

【関連項目】 地形[3] 東濃地方

【キーワード】 奥美濃酸性岩類,川浦花崗岩,川浦渓谷,方状節理,風化作用,マサ化

【関連文献】
棚瀬充史 (1982) 奥美濃酸性岩類―両白山地における白亜紀火成作用―.地質学雑誌,88,271–288.

【余談】
川浦花崗岩の南東方には,同じ奥美濃酸性岩類に属する高賀花崗岩と呼ばれる岩体がある.この岩体はかなりマサ化が進んでおり,川浦花崗岩とはまったく異なる様相を呈する.浸食がすすみ,岩体の内部が深くえぐられており,そこに高賀の集落が広がっている.両花崗岩は似たような岩質・岩相をもち,似たような形成過程を経ていながら,マサ化の進行具合がまったく異なっている.地表の条件が微妙に違うのであろうが,わずかなことでまったく異なる経過をたどるようである.

『学習テーマ』
中学1年「大地の変化 (地層と大地の歴史) ―浸食


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