岐阜の地学  火山  乗鞍火山  水中自破砕溶岩

火山[16] 木曽川泥流
~火山体の崩壊物~

 
 
 
  
【豆知識】

火山体の斜面は一般に急傾斜であり,火山堆積物が不安定な状態におかれているので,容易に土砂崩れを起こしやすい環境にある.その場合,水が絡んで崩れていくと火山泥流となり,水が絡まずに空気をからめて崩れると岩屑なだれとなる.最初に後者が起こり,途中から前者に変わっていく場合もある.火山泥流は“ラハー”とも呼ばれ,火山地帯では火山灰などの材料が常に用意されており,多量の雨,噴火活動による融雪や火口湖の決壊などで水分が得られれば,いろいろなプロセスで形成される.火口から泥状物質が直接噴出することも,火砕流が湖水や湿地に流れ込んで泥流化することもある.最も起こりやすいタイプが火山体の崩壊であり,崩壊が外力によるものもあれば,水蒸気爆発などの内力によるものもある.流れ出した火山泥流は水分を含むことで低粘性となり,長距離にわたり流れ下ることが可能になる.流れが停止すると水分が抜けて泥質部が固く締まった基質をつくるため,堆積物は大量の岩片を含んだ無層理の堅固な岩石となる.
御嶽火山では,約5万年前に木曽川泥流と呼ばれる火山泥流が発生し,木曽川にそって各務原市鵜沼までの約200kmにもおよぶ距離を流れた.山体の頂上付近から北東麓が大規模に崩壊したらしく,いろいろな種類と大きさをもつ安山岩類の岩塊や岩片を最初は岩屑なだれとして流し,その厚さは御嶽山東麓の末川ぞいで約100mに達した.下流へ流れるにつれて火山泥流となっていったようである.木曽川ぞいでも5m以上の厚さがあるが,狭い木曽川の峡谷を流れ下ったために現在では堆積物はほとんどが削剥されてしまっており,八百津,美濃加茂,各務原といった川幅の広い場所に堆積したものだけが残っている.最初の岩屑なだれの発生過程や火山泥流としての形成過程は詳しくわかっていないが,一気に長距離にわたって膨大な量の砕屑物を流すためには,氷期にあたる当時の御嶽山の山体をとりまく状況が関係する可能性もあろう.

【関連項目】 災害[8] 帰雲山大崩壊
地形[16] 各務原台地

【キーワード】 御嶽火山,火山泥流,岩屑なだれ,木曽川泥流,山体崩壊

【関連文献】
竹内 誠・中野 俊・原山 智・大塚 勉 (1998) 木曽福島地域の地質.地域地質研究報告 5万分の1地質図幅) ,地質調査所,94P.

【余談】
1984年 (昭和59年) の長野県西部地震では,御嶽山の南側斜面が崩れて大量の山体崩壊物を下流の王滝川へ流し込んだ.最初は水を含まない岩屑なだれであったものが,途中から河川の水を混ぜて泥流化させたとされている.崩壊箇所はいまだに大きく壁をむき出しにしており,“大規模に崩れて大量の土砂を”というべきであろうが,たどり着いた地点は御嶽山の麓に過ぎない.濃尾平野にまで流れ出すような山体崩壊ではじめて“大規模に大量に”というべきであろう.

『学習テーマ』
中学1年「大地の変化 (火山と火成岩) ―火山の活動 (泥流)


岐阜の地学  火山  乗鞍火山  水中自破砕溶岩

ホーム岐阜の地学・よもやま話 copyright © Yoshimitsu Koido 2001–2002.
製作・著作: 小井土 由光 (email), ページ作成: 江川 直 (email).