北西部~中部 (根尾村能郷~神所(かんどころ))

↑根尾谷断層のすがた

北部概略図
根尾村能郷~水鳥間の根尾谷断層
(1 / 5万地形図「能郷白山」「谷汲」を使用)
枠内は個々の地域を示す図の範囲を表わしています.

能郷谷沿いに南下した断層線は,下図のように能郷から根尾西谷川の左岸 (東岸) に沿って南南東へむかって延びていきます.その間,山麓斜面や段丘面上を横切る各所に明瞭な断層地形を残しています.

能郷~長島
根尾村能郷付近における根尾谷断層がつくる断層地形
(1 / 5000森林基本図「根尾村」No.21を使用)

能郷 / 鞍部地形
根尾村能郷南方の根尾谷西谷川の河岸より北方に見える鞍部地形
(2002年11月撮影)
中央にみえる鞍部地形が左上図bの位置にあたります.

1. 能郷

藤谷口から能郷谷沿いに南下した断層線は能郷の北西で尾根部に入ります.そこでは左図のように,斜面の途中に傾斜変換部(a)明瞭な左ずれ屈曲を示す尾根上の鞍部(b) [注] ,あるいは直線状の谷地形(c)を形成して能郷に至ります.能郷より南では根尾西谷川に沿って南下していきます.
[注]   ふつうは直線あるいは緩やかな曲線を描いてつながる尾根筋が断層で水平ずれをおこすと,b点のように鞍部で折れ曲がるような配置になります.
⇒根尾谷地震断層 (藤谷口~能郷)

天神堂~長嶺
根尾村天神堂~長嶺における根尾谷断層がつくる断層地形
(1 / 5000森林基本図「根尾村」No.21を使用)

2. 天神堂(てんじんどう)長嶺(ながみね)

天神堂から長嶺にかけての断層地形のようすを左図に示します.天神堂の南東では,段丘面上に地震断層が出現し,撓曲状の低断層崖(a)を形成しました.その南東延長上にある支谷は断層線沿いに100 mほど左ずれ屈曲(b–b′)を示しています.長嶺の東側で,南北方向に延びる尾根に明瞭な鞍部地形(c)がみられ,そこで尾根筋が100 mほど左ずれ屈曲を示し,その北側と南側で高位段丘面が20~30 mの垂直ずれ (d斜線部) をしています.
左図において,根尾谷断層に平行してその北東側に直線状に並ぶ断層地形が明瞭にたどれますが,わかりますか? 図上にはわざと何も記入しませんので,自分で探し出してみてください.これが実際に活断層であるか否かは現地で確かめる必要があります.
⇒根尾谷地震断層 (長島~門脇)

門脇~越卒
根尾村門脇~越卒における根尾谷断層がつくる断層地形
(1 / 5000森林基本図「根尾村」No.21を使用)

3. 門脇(かどわき)

左図のように,前図の南東部にあたる屈曲した尾根のすぐ東側を流れる敷原谷では約100 mの左ずれ屈曲(a–a′)がみられ,そのすぐ上流側にも類似の地形(b–b′)がみられます.門脇の段丘面には,南西に向かって緩やかに傾斜した撓曲状の低崖地形(c)があり,そこでは地震断層が明確な左ずれを形成しました.この段丘面上を流れる谷が約100 mの左ずれ屈曲(d–d′)を,そのすぐ南東側の尾根筋も左ずれ屈曲(e)をそれぞれ示しています.
この段丘面上に村営の淡墨(うすずみ)温泉が開設されており,断層線はその建物のすぐ西側を通過し,その北西端で1998年に幅30 mにわたりトレンチ掘削がなされました(h).トレンチ掘削面には,下図のように幅約10 mに及ぶ主断層帯 (F1~F8断層帯) が現れ,そこにある腐植土層の形成年代値とそれらをずらしている断層の状態から,8,800年前以降に5回,4,100年前以降に確実に3回の断層活動があり,その平均活動間隔は約2,700年と推定されています.

門脇 / 屈曲と撓曲
根尾村門脇における段丘面上の低断層崖 (上図Cの位置; 2002年9月撮影)
人がいる位置でお茶の木の列が左ずれで屈曲しており,その位置で斜面の傾斜がわずかに変わっています.奥に見える屋根は淡墨温泉の建物です.トレンチ調査は写真左端付近で行われました.

門脇トレンチ断面
根尾村門脇におけるトレンチ壁面のスケッチ
[粟田ほか(1999)による]

【文献】
粟田泰夫・苅谷愛彦・奥村晃史(1999) 古地震調査にもとづく1891年濃尾地震断層系のセグメント区分. no.EQ/99/3,115–130.
⇒根尾谷地震断層 (長島~門脇)

門脇~越卒
根尾村門脇~越卒における根尾谷断層がつくる断層地形
(1 / 5000森林基本図「根尾村」No.21を使用)

越卒 / 小砂谷の屈曲
根尾村越卒の小砂谷でみられる左ずれ屈曲 (前図gの位置; 2002年11月撮影)
手前の橋に対して奥の橋の位置が左へ約50 mずれています.

4. 越卒(おっそ)

門脇の南東にあたる越卒では,その北側にある段丘面上で北東側を向いた比高3~4 mの低断層崖(f)が北西~南東方向に延びており,その南東延長上の小砂谷では,国道のすぐ東側で50 mほどの左ずれ屈曲(g)がみられます.なお,門脇付近と越卒付近における断層線の位置は同一延長線上にはなく,雁行状配列を示しており,低断層崖 (cとf) の向きも逆になっています.

越卒 / 低断層崖
根尾村越卒北方の段丘面上における低断層崖 (前図fの位置; 2002年11月撮影)
手前の田面 (北東側) と奥の林 (南西側) との間に比高3~4 mの段差があります.

⇒根尾谷地震断層 (越卒~中)

中の累積ずれ
根尾村中における神所川の屈曲
[岡田・松田(1992)にもとづき作成]
断層上の屈曲線は濃尾地震とともに生じた左水平ずれを表わしており,それらは現在も確認できます.

5. (なか)

ここは地震断層の左ずれ屈曲が現在でも明瞭に残されていることで有名ですが,活断層としては,左図に示されるように神所川における約28 mに及ぶ累積屈曲量が注目されます.濃尾地震の時に7~8 mの左ずれを起こしていますから,根尾谷断層が通過している段丘面が形成された約14,500年前以降にそれと同規模の運動が平均して3,500年ほどの間隔で4回起これば,このような累積結果がもたらされることになります. なお,ここでは門脇や越卒でみられたような垂直ずれによる段差はまったく認められません.
【文献】
岡田篤正・松田時彦(1992) 根尾村水鳥および中付近における根尾谷断層の第四紀後期の活動性. 地学雑誌,101,19–37.
⇒根尾谷地震断層 (越卒~中)

神所~市場
根尾村神所~樽見における根尾谷断層がつくる断層地形
(1 / 5000森林基本図「根尾村」No.25,26を使用)

6. 神所

神所川から南東へ直線状に延びた断層線は神所の東方で山の中へ入り,左図のようにそこで鞍部地形 (○印) を作り,その間にある支谷に約200 mの左ずれ屈曲(a–a′)を形成しています.その南東延長では,根尾東谷川や根尾川本流が作る沖積低地の中を通過するために断層地形は不明瞭になります.
⇒根尾谷地震断層 (神所~板所)