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火山[20] 上宝・奥飛騨火砕流堆積物
~出口を残した火砕流~

 
  
【豆知識】

飛騨地方では,鮮新世後期の丹生川火砕流堆積物から始まって,いくつかの大規模な火砕流が流れている.北アルプスの上昇や位山(くらいやま)分水嶺の形成が始まって以降に上宝村や丹生川村などの地域に流れたのは上宝火砕流堆積物奥飛騨火砕流堆積物である.これらの分布は断片的ではあるが,その出口にあたる給源火道がつきとめられている.
上宝火砕流堆積物は,第四紀の更新世中期 (約65万年前) に上宝村福地(ふくじ)の南方にある貝塩給源火道から噴出し,上宝村から丹生川村,高山市東部,朝日村へかけての約500km²にわたる広い地域に分布する.厚さは最大250mに達する.その大部分は流紋岩質溶結凝灰岩からなり,硬いためにしばしば絶壁をつくる.丹生川村北東部の八本原は標高約1300~1700mの平坦な地形をもつ高原で,この堆積物がつくった火砕流台地である.貝塩給源火道は,流紋岩質の溶結凝灰岩,花崗斑岩,凝灰角礫岩からなるパイプ状岩体であり,東西1.4km,南北0.9kmの楕円形のなす.溶結凝灰岩や花崗斑岩に含まれる鉱物種が上宝火砕流堆積物中のものと一致し,放射年代値も一致する.
奥飛騨火砕流堆積物は,更新世中期 (約60万年前) に槍ヶ岳西方の水鉛谷給源火道から噴出し,北アルプス主稜線にある樅沢岳周辺から蒲田(がまた)川流域および笠谷流域にかけての地域に分布する.厚さは数十mから100mほどで,場所によりかなり変化する.おもに流紋岩質の溶結凝灰岩からなるが,非溶結部もかなり含まれている.上宝火砕流堆積物と岩相がよく似ているが,含まれる鉱物種が異なることで区別される.また,規模が小さいために分布も限られ,明瞭な火砕流台地も形成していない.水鉛谷給源火道は径500~600mの尖塔状に突出した岩体であり,奥飛騨火砕流堆積物とまったく同じ鉱物を含む花崗斑岩からなる.この火道からは火砕流と同時に降下火山灰層を放出しており,その一部が高山盆地周辺に分布する高山軽石層と考えられ,関東地方まで飛ばしている.

【関連項目】 火山[9] 火山灰の正体
火山[10] 火砕流
火山[19] 丹生川火砕流堆積物

【キーワード】 奥飛騨火砕流堆積物,貝塩給源火道,火砕流台地,上宝火砕流堆積物,降下火山灰層,水鉛谷給源火道,高山軽石層,八本原,流紋岩質溶結凝灰岩

【関連文献】
原山 智 (1990) 上高地地域の地質.地域地質研究報告 (5万分の1地質図幅) ,地質調査所,176P.

【余談】
焼岳の麓にある貝塩給源火道から流れ出た上宝火砕流堆積物は,すでに形成されつつあった位山分水嶺を超えて朝日村の飛騨川流域まで流れている.その規模にもよるが,火砕流が100m程度の高さをもつ尾根を超えることはわけなくやってのける.それほど火砕流という現象は恐ろしいものである.

『学習テーマ』
中学1年「大地の変化 (火山と火成岩) ―火山活動 (火砕流)


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