硫酸イオンが乏しかった太古代の海水

硫酸還元速度による、硫黄同位体分別の変化。ズーム
硫酸還元速度による、硫黄同位体分別の変化。
どの温度・濃度でも、あまり変化しない。
Reprinted by permission from Nature Habicht and Canfield 1996 Figure 1 copyright 1996 Macmillan Publishers Ltd.
太古代硫化物の硫黄同位体比を論ずるため、Habicht and Canfield (1996)は、硫酸還元速度が硫黄同位体分別にどれだけ影響を与えるかを実験した。実験の試料には、シナイ半島のソーラー湖で採集した、シアノバクテリアのバイオマットが選ばれた。シアノバクテリアのマットでは、光合成によって活発に炭素固定が行われ、生成した有機物は硫酸還元バクテリアが分解する。彼らは、バイオマットを培養しながら、硫酸還元速度を0.2~20 mmol∕(L d)の間で変化させ、硫黄同位体分別の変化を測った。
その結果は、硫黄同位体分別に対する硫酸還元速度の影響は大本らが期待していたものより大きくはなかった。このことから彼らは、太古代の海洋で硫黄同位体分別が小さかったのは、高い硫酸還元速度によるという解釈はできず、そもそも海水中に硫酸イオンが乏しかったからだと結論した。
温度による、硫黄同位体分別の変化。ズーム
温度による、硫黄同位体分別の変化。
つねに高い値を示している。
Reprinted (abstracted/excerpted) with permission] from [Canfield et al. 2000. Science, 288, 658. Figure 1. Copyright 2000 AAAS
さらにCanfield et al. (2000)は、アルビン号が深海底熱水孔周辺から採集した堆積物を培養実験して、硫酸還元バクテリアの硫黄同位体分別が温度に依存するかどうかを調べた。その結果、温度に関係なく、大きな硫黄同位体分別があった。
これらから彼らは、34億~28億年前は海水中の硫酸イオン濃度は低く、海水中の硫酸イオンと大気中の酸素は、原生代初期に起こったと論じている。
文献
Canfield, DE; Habicht, KS; Thamdrup, B. 2000. The Archean sulfur cycle and the early history of atmospheric oxygen. Science, 288, 658–661.
Habicht, KS; Canfield, DE. 1996. Sulphur isotope fractionation in modern microbial mats and the evolution of the sulphur cycle. Nature, 382, 342–343.