大本らの挑戦
硫酸還元バクテリアによる硫酸と硫化水素の硫黄同位体分別は、硫酸還元速度が大きい場合に小さな値をとる。
このことは古くから知られていたが、1980年代なかばまでは、それは例外的な状況とみなされていた。
Ohmoto and Felder (1987)は、キャメロンとは全く異なる見解である。まず彼らは、太古代の硫黄同位体比のばらつきを重視した。
この図によると硫黄同位体比の平均値は0に近いが、ばらつきをみると、大きくマイナスにずれた値も多い。このようなばらつきが、硫酸還元バクテリアの硫酸還元過程を反映していると、彼らは考えた。
では、なぜ太古代の硫化鉱物の硫黄同位体比は平均値は0に近いのか。彼らは、硫酸還元バクテリアが硫酸を還元するとき、
- 硫酸還元速度が大きいほど、硫酸と硫化水素の硫黄同位体分別が大きくなる
- 温度が高いほど、硫酸還元速度が速くなる
ことを重視した。
このことから、太古代の海洋で、
- 海水温度が高い
- 硫酸還元速度が速い
とき、硫化物の硫黄同位体分別は小さくなる。
Ohmoto et al. (1993)は、34億年前の南アフリカの堆積岩中の硫化物の硫黄同位体比を測定し、硫黄同位体比のばらつきを求めた。レーザー加熱装置を持つ微小領域硫黄同位体測定装置により、高い精度のデータが得られた。その結果、当時の硫黄同位体分別は2‰だったことがわかった。この分別量は、硫酸還元速度が10~100 mol∕(L y)のときのものと一致する。彼らによると、当時の海水の硫酸イオン濃度は10 mmol∕Lで、34億年前には現在とほぼ同じ量の酸素が大気中にあった。
文献
Ohmoto, H; Felder, RP. 1987. Bacterial activity in the warmer, sulphate‐bearing, Archaean oceans. Nature, 328, 244–246.
Ohmoto, H; Kakegawa, T; Lowe, DR. 1993. 3.4‐billion‐year‐old biogenic pyrites from Barberton, South Africa: sulfur isotope evidence. Science, 262, 555–557.