硫黄同位体システマティクス

δ33S、δ34S、δ36Sの関係。ズーム
δ33S、δ34S、δ36Sの関係。
Fargular, J. 2000. Science, 289, 756 Fig. 3 A
硫黄には32Sと34Sのほかに、33Sと36Sも存在する。この2つの同位体比も、34Sと同じく、キャニオン・ダイアブロ隕石を標準試料とした比偏差で表す。カリフォルニア大学のFarquhar et al. (2000)は、太古代の硫化物や硫酸塩鉱物の硫黄同位体比を測定して、同位体分別のメカニズムが約20億年前に変化したことを見出した。
熱力学過程、反応速度論的過程や生物が関与する同位体分別では、質量数の異なる核種に対する分別は相対的な質量差を反映した変化を受ける。すなわち、関係式
δ33S = 0.515 δ34S
δ36S = 1.90 δ34S
で表される直線上にデータはプロットされる(図) 。そこで、この関係からの偏差をΔ33S、Δ36Sと表すことにする。
この直線関係からのずれを生み出す反応には、SO2、H2S、CS2などのガス成分間の反応が知られている。
Δ33Sの、年代による変化。ズーム
Δ33Sの、年代による変化。
2 Gaを境に、変位がほぼ0になっている。
(Δ33Sについては本文参照)
Fargular, J. 2000. Science, 289, 755 Fig. 1
図は、さまざまな時代の硫化物、硫酸塩鉱物の硫黄同位体比から得られたΔ33Sである。20億年前より若い試料はほとんど偏差が0に近いが、太古代の試料には大きく正、負にずれている。
20億年前より若い時代のデータには大きな偏差がない理由は、ガス相の反応で硫黄同位体比に分別を受けたとしても、酸素が多い環境では酸化されて海水中で混合し、一様になったからだと考えられる。この解釈は、20億年前ごろに大気中の酸素分圧が高くなったとする考えと符合している。
文献
Farquhar, J; Bao, H; Thiemens, M. 2000. Atmospheric influence of Earth’s earliest sulfur cycle. Science, 289, 756–759.