縞状炭酸塩岩(cap carbonates)の謎
原生代後期の氷河時代についての問題は、たいへん複雑な方向へ展開した。ヨーロッパで国際会議が開かれた1963年に、地質学者シェルマーホルン(Shermerhorn)がアフリカのコンゴにおける長年の地質調査の結果を論文として発表した。
彼は、コンゴに分布する原生代の氷河堆積物を調べていたが、それらは直接、炭酸塩岩に覆われていた。
この炭酸塩は、縞状炭酸塩岩、あるいはキャップ・カーボネイト(cap carbonates)と呼ばれる。
炭酸塩岩は炭酸カルシウムで構成されており、現在の地球では熱帯珊瑚礁などで大規模に形成されている。彼らが調べた地域の炭酸塩岩はストロマトライトと呼ばれる縞状構で、珊瑚礁と同様、温暖な環境で堆積したものだと考えられた。氷河堆積物は極域のような寒冷地、ストロマトライトは熱帯の赤道域で堆積する。当時すでに大陸移動の考えは打ち出されていたが、大陸が極から赤道へと一気に移動するとはとても考えられない。その間に中間的な気候で堆積した地層が挟まれず、直接接していることは、大きな謎だった。
このような、氷河堆積物と縞状炭酸塩岩の組み合わせは、スコットランド、オーストラリア、ナミビアなでも見つかり、この時代の氷河堆積物の共通の性質だと考えられるようになった。
シェルマーホルンは、この事実をもっともらしく説明するため、“氷河堆積物と言われていたものは、実は氷河堆積物ではなく、土石流堆積物だ”と主張し、氷河堆積物だという解釈を批判した。1974年には、そのための長大な論文を発表した。
文献
Shermerhorn, LJG. 1974. Late Precambrian mixtites: glacial and/or non‐glacial. American Journal of Science, 274, 673–824.