氷河時代の発見
ヨーロッパの各地には、突然、巨大な岩が平原にぽつんとあることがある。そのような石は迷子石と呼ばれ、よく知られていたいた。また、粘土や砂や礫からなる混然とした地層が広く分布していることも知られていた。それらは、聖書にでてくるノアの大洪水の産物だと考えていた。
しかし、“迷子石などは氷河の作用によってできた”という解釈を与えたのが、ルイ・アガシー〔Jean Louis Rodolphe Agassiz, 1807–1873, スイスの博物学者〕である。
アガシーは、スイスのヌーシャテルで開催された学会で、魚類化石に関する講演をしようとしていた。ところがそこで、迷子石などがかつてヨーロッパを広く覆った氷河の作用であることを直観し、急遽、講演内容を氷河時代に関するものに変更した。
アガシーは、そのときの講演内容を著作‹氷河時代›にまとめ、1840年に発表した。彼の講演は、多くの人々をとまどわせるものだったが、次第に、かつて氷河時代があったことを認める人々が増えてきた。それ以来つい最近にいたるまで、氷河時代がなぜ訪れるのかは、地球科学における最大の課題だった。
しかし、当のアガシーは1840年代後半には、再び魚類化石の研究に没頭してしまった。アガシーは氷河時代の黎明期にまさに彗星のように出現し、大きな足跡を残し、去ってったのである。