エネルギー収支の気候モデル

地球表面温度は、太陽からやってくる日射量と、地球表面から宇宙への赤外線放射のバランスで決まっています。
太陽からやってくる日射量は1.37 kW∕m2です。これは、大気の反射や吸収を無視した値、言いかえれば、大気圏外での値です。この値が太陽定数Sです。
地球の半径をRとすると、地球が受け取るエネルギー流量は、
Φin = S × { 1 - a(T) } × πR2
…(1)
です。a(T)は、アルベド(反射率)です。アルベドは雲や地表の植生、雪氷によって変わりますが、ここでは簡単に、温度Tの関数と考えます。
つぎに、地球から宇宙へ放射される赤外線のエネルギー流量は、ステファン‐ボルツマンの法則で
Φout = σ(T) × T4 × 4πR2
…(2)
と表せます。
地球に出入りする熱の、温度による変化。ズーム
地球に出入りする熱の、温度による変化。
これらの関係をグラフに表すと、図のようになります。赤線は太陽から受け取る入射エネルギー流量Φin(式1)、青線は地球から出る放射エネルギー流量Φout(式2)です。
入射エネルギー流量Φinのグラフに折れ曲がりがあるのは、地球が完全に雪氷で覆われた状態(T < Tl)ではアルベドが大きい値で変化せず、雪氷がない状態(Tu < T)では小さい値で変化せず、中間段階(Tl < T < Tu)では、雪氷の量により変化するからです。放射エネルギー流量Φoutが右あがりなのは、温度Tの4乗に比例するためです。
さて、2つの線が交わったところが3つあります。まず温度T1を考えましょう。
このΦinΦoutが交わる温度T1は、安定な地表温度です。その理由を説明します。
何らかの原因で地球の温度Tがちょっと上昇したとします。このとき入射エネルギー流量Φinは変わりませんが、放射エネルギー流量Φoutは上昇し、バランスがくずれます。差し引きでエネルギーが減少するので、この状態は持続せず、温度Tは減少します。この減少は、T1に戻るまで続きます。がもとの安定な温度に戻ります。
温度TT1から減少したばあいは、まったく逆の変化で、T1に戻ります。このことから、温度T1は安定な温度だとわかります。
同様に、温度T3も安定です。
ところが、温度T2では、温度Tが少し上昇すると、アルベドの減少による入射エネルギー流量Φinの増加が、放射エネルギー流量Φoutの増加を上回ります。すると、さらに温度Tが上昇し、どんどんT2からずれていきます。つまり、温度T2は擾乱に対して不安定です。
このように考えると、地表の温度には2つの安定解
温度T1
雪氷がなく温暖な気候状態
温度T3
地球表面がすっぽり雪氷で覆われた寒冷な状態
があることがわかります。
現在の地球は温度T1の温暖な状態です。
この簡単な考察によれば、もし地球が寒冷化して完全に雪氷で覆われてしまったら、二度と温暖な気候には戻りません。