全球凍結モデル

二酸化炭素の増大による、全球凍結からの回復。ズーム
二酸化炭素の増大による、全球凍結からの回復。
1→2: 全球凍結が起こる
2→3: 二酸化炭素が蓄積し、温度が上昇する
3→4: 氷床が一気に融解する
4→1: 二酸化炭素がゆっくりと減少する
Reprinted by permission from Nature Caldeira and Kasting 1992 Figure 3 copyright 1992 Macmillan Publishers Ltd.
Tanabeズーム
Tanabe
スノーボール・アース仮説は、地球全体がほぼ全球凍結状態になったと主張する。この状態は驚くべきものだが、気候モデルの世界ではかなり前から知られていた。
気候学者のブディコ(M.I. Budyko)とセラー(W.D. Seller)は、それぞれ独立に、二次元気候モデルを用いて地球の気候の安定状態を解析していた。彼らは、太陽光度がわずかに数%低下するだけで地球の気候は寒冷化することを示した。
気候の寒冷化は極域の氷床の拡大を促す。氷床の発達は地球の反射率(アルベド)を大きくし、さらなる寒冷化の原因となる。これは正のフィードバック機構と呼ばれ、暴走的に寒冷化して地球全体が凍りついてしまう。すなわち、地球の気候には2つの安定な解があり、1つは現在の地球のような温暖な解、もう1つは地球全体が凍りついた寒冷な解で、実際の地球は温暖な解を選択したというわけである。では、地質時代の気候が振り子のように温暖解と寒冷解の間を行きつ戻りつしたかというと、そうはならなかったと考えられた。いったん地球全体が凍結した全球凍結状態になると、再び温暖な気候へは回復しないと考えられたからである。
気候モデルの〈全球凍結解〉には、最大の問題がある。いったん完全に凍りついた地球は、再びもとにはもどらない。
だが、気候学者のモデルによれば、大気中の二酸化炭素濃度が現在の400倍にまで高まれば、温室効果によって氷床を融かすことができることが知られていた(Caldeira and Kasting, 1992)。
海洋全体が氷床で覆われても、陸上での火山活動は持続しただろう。火山ガスの主成分は水蒸気と二酸化炭素である。通常なら、過剰な二酸化炭素は海水に溶け、炭酸塩鉱物となる。
しかし、海洋が凍結した地球では、二酸化炭素は大気中に蓄積される。したがって、いつかは臨界値を越えて氷で閉ざされた地球を解凍させるにちがいない。しかもいったん融け始めると、正のフィードバックにより、気温は一気に上昇し短い期間で氷床はなくなる。
現在の400倍にも達する高濃度の二酸化炭素は、そのまま大気中に残される。氷床が溶けた時点で、地球の表面温度は40℃ぐらいまで上昇したものと考えられる。
このような温暖な気候状態では、陸の風化や侵食が進み、カルシウムなどの陽イオンが海に運ばれる。大気中の二酸化炭素が溶け込んで一時的に海水のpHは低くなり、炭酸塩岩の溶解が起こるが、引き続いて大量の炭酸塩岩の沈殿が起こる。これで氷河堆積物とそれを直接覆う縞状炭酸塩岩の組み合わせは合理的に説明がつく(Hoffman et al., 1998).
文献
Caldeira, K; Kasting, JF. 1992. Susceptibility of the early Earth to irreversible glaciation caused by carbon dioxide clouds. Nature, 359, 226–228. [abstract]
Hoffman, PF; Kaufman, AJ; Halverson, GP; Schrag, DP. 1998. A Neoproterozoic Snowball Earth. Science, 281, 1342–1346. [abstract]